グローバルな金融経済の動向を、ユニークな視点を交えてお伝えいたします。

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ジョージ・フリードマンに学ぶ地政学の今

 オバマ大統領はアジア歴訪の日程を終えて帰国の途につきましたが、この
一週間は、世界が再び地政学の時代に戻ったことを、強く認識させられまし
た。
 
 アジアの人々の関心は、東アジアや南シナ海の安全保障に関するオバマの
スタンスにありましたが、欧米のメディアは遠くアジアを歴訪中のアメリカ
の大統領がウクライナ問題にどう対応するのかが気になって仕方がない様子
でした。地政学的な緊張が高まれば、地球の裏側に近い場所での緊張より、
身近な地域での緊張への関心が高まるのが当然です。

 事態の進展のスピードにばらつきがあるものの、欧州とアジアの両方の主
要国間で地政学的な緊張感が同時進行的に高まるのは、第二次大戦以降では
初めての事態ではないでしょうか。地球上の別の遠く離れた場所で一見バラ
バラに動いているように見える出来事が、実は緊密に連動してやがて大きな
うねりに成長して、しばしばその時代の人々を翻弄するようになるというの
が歴史の教えるところであり、しばらくの間は世界の出来事から目が離せな
くなりそうです。

 このような地政学復活の時代に、大変に参考になる本があります。「影の
CIA」とも呼ばれるアメリカの民間情報機関を経営するジョージ・フリードマ
ンの「激動予測(The Next Decade)」(早川書房、2011年)です。日本では
同じ著者の「100年予測」の方が売れて有名ですが、現在の世界の地政学的
状況を包括的に理解するにはこの「激動予測」が最適です。100年予測がや
やSF的な空想も含めた「予測」の書であるのに対し、「The Next Decade」は
予測の書というよりは、むしろ「地政学の現状」の書であり、アメリカが現
在とるべき戦略を示した本であるからです。

 たとえば、ウクライナの情勢については、ウクライナやベラルーシといっ
て国がロシアにとってどれだけ重要な地域であるか、そしてソ連崩壊以来の
アメリカによるロシア封じ込め戦略があり、ロシアはその巻き返しを狙って
いたことを考慮すれば、「ロシアの再浮上」のタイミングで現在のような脅威
が生まれるのは当然のこととして予見されています。
 しかしながら、フリードマンの長期的な視点では、ロシアは人口問題など
のよって弱体化する運命にあり単独でアメリカを脅かすようなリスクはない
と見ているようです。そしてアメリカが心配しなければならないのは、現在
ウクライナで起きていることとは逆に、ロシアがドイツと接近していくこと
であり、それによって欧州のパワーバランスが崩れ、アメリカが欧州から切
り離されることだとしています。
 
 一方、われわれに関心が高い日本と中国のパワーバランスの問題について
ですが、結論から言えば、フリードマンは、ロシアと同様に中国の長期的な
見通しについては懐疑的に見ているようです。これは、中国の経済成長は必
然的にやがて鈍化して、その結果人民解放軍の不満などさまざまな国内問題
に対応せざるを得ないという考え方に基づいています。
 フリードマンがアメリカの本当の脅威になると考えているのは中国でなく
日本であり、日本はやがて「静かで控えめな姿をかなぐり捨てる」という考
え方をもっているようです。ただアメリカの脅威という形に至るのは10年や
20年といった時間軸ではなく、もっと先の話であり、アメリカはそれに備え
て日本と友好的なスタンスを保ち、一方で中国が分裂しないように万全の手
を打つ必要があるとしています。(ちなみに「100年予測」では2050年に日
本が再びアメリカに奇襲攻撃を仕掛けると予測しています。)

 さてフリードマンがこの本を書いてから3年が経過している現時点におい
て、少なくとも表面的には中国のパワーがますます増大しているように見え
る一方で、中国国内のさまざま矛盾はその内部で着実に膨らみ続けているよ
うにも見えます。そうした状況下、中国は対外的には好戦的な姿勢を見せ続
けるために、日本を始めとする周辺国は偶発的なリスクとその延長上にある
より大きなリスクが高まったと捉えて、必然的にそうしたリスクに備えるた
めの準備を進めます。
 一方でオバマ大統領をリーダーとするアメリカが、リップサービスはとも
かくとして、本気で日本や他の同盟国の利益を守るかどうか疑がわしく思わ
れる状況であれば、日本が戦後70年間続けていた受動的な姿勢からの変貌を
始めるのはある意味で自然の流れのような気がします。そういう意味では、
安倍首相は時代の流れの追い風に恵まれた政治家なのかもしれません。

 この先のアジアや欧州の歴史がフリードマンの描いたシナリオ通りに進ん
でいくかどうかは分かりませんが、個人的には、現時点では少なくともひと
つの有力なシナリオのひとつであり、常に頭の片隅において置く価値があり
そうに思われます。ただし、日本がアメリカにもう一度力で挑戦するところ
まで行き着くのは勘弁してほしいものですが・・・。
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オバマ大統領の選挙資金

 今年はアメリカの大統領選挙の年で、共和党の予備選挙も例によって事前の予想が何度も覆され有力候補が入れ替わり登場するような状況になっています。

 大統領選といえば、前回2008年の大統領選を思い出してみると、当時のオバマ候補はスマートで人々の心をくすぐる演説を行う清潔感あふれるイメージの人物であったことは間違いありません。しかしその一方で、オバマ候補は7億5千万ドルという史上空前の選挙資金を集めていました。

筆者はブッシュ大統領に対する嫌悪感の強さもあってオバマ氏のイメージの良さに期待してしまった人間の一人なのですが、オバマ氏の空前の選挙資金とのギャップにはどうもしっくりきませんでした。

当時は、オバマ氏は5ドル、10ドルといった小口の献金をネットで集めてこれだけ巨額な資金に膨れ上がったといった報道が中心でした。オバマ氏は確かに小口の献金も相当な量を集めたのですが、実際には多国籍企業やウォール街などから集めた資金が大部分で、200ドル未満の献金は全体の1/4に過ぎなかったことが後日判明し、メディアでは小さな扱いしかされませんでしたが、一部で大きな関心を呼びました。

アメリカでは表向きは企業や団体からの直接の献金は規制されていますが、企業経営者が政治活動委員会(PAC)を組織して自発的に献金することは認められ、事実上の企業献金になっているのです。オバマ大統領は、ネットの草の根運動で集金したというイメージを作り上げることに成功したものの、実際にはブッシュ前大統領とほとんど変わらないような企業群からの巨額の資金援助を受けていたのです。

 7億5千万ドルというと、当時の為替レートを110円ぐらいとすると、825億円となります。民主党の小沢元代表の4億円の資金の記載問題が、大問題化されてしまっている状況を考えると、全く想像を絶する世界です。

 アメリカの選挙はどうしてこんなにお金がかかるのか。それは、テレビのコマーシャルを使用するからです。テレビを使った情報戦は近年ますますエスカレートしているようであり、今回の共和党の候補者選びでも、各候補者が巨額の資金を使ってライバルの中傷合戦をするという非常に醜悪な状況になっているようです。

 それまで無名候補であったオバマ氏が、最右翼と言われ続けたヒラリー・クリントン氏に民主党の代表選びで勝利し、一気に大統領にまで上り詰めたのは、大量のコマーシャルを使ったイメージ戦略の勝利と言われています。オバマ氏に献金した企業も、彼のルックスや話術が「使える」と判断した結果、それほどの資金が集まったのでしょう。

前回はジャーナリストの堤未果氏が岩波新書から出した「貧困大国アメリカ」(2006年)をご紹介しましたが、堤氏は2010年1月にその続編となる「貧困大国アメリカⅡ」を出しています。そこでは、オバマ大統領が進めた医療改革で、結局は製薬会社と医療保険会社がますます利益を上げる一方で、中流以下のアメリカ人が一歩間違えるとすぐにホームレスにまで転落してしまう社会であることなどを描いています。

堤氏はオバマ政権発足直後から、オバマ政権の本質を見抜いていたようで、就任後間もなく書いたこの本で、消費者運動で著名な弁護士の次のような言葉を引用しています。「耳ざわりのいいスローガンよりも、七億五〇〇〇万ドルの選挙資金の出所をチェックすれば、就任後の彼の方向性がブッシュ政権の継続になることは火を見るより明らかだ、小口献金は四分の一に過ぎない。見なければならないのは、残り四分の三を占める大口献金リストの方だ」。

 今年のアメリカの大統領選挙、このような視点からのチェックは不可欠かもしれません。

アメリカは変われるのか?(TPP問題に関連して)

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

 新年早々なのですが、また筆者の本業が多忙になりつつあり、しばらくの間はブログの更新が不規則になりそうなので、ご連絡しておきます。

 さて、年初に見たブルームバーグ(web版)に印象深いコラムが有りました。数年前まで競ってウォール街への就職を希望していた米国東海岸アイビーリーグの名門校の学生たちの間でウォール街への反乱が起こっているというのです。(「1%層が怒れる若者を説き伏せるための戦略的提言-ルイス」ブルームバーグ)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LWY2YI1A1I4H01.html

 数年前までウォール街の採用担当者達が簡単に手なずけることが出来た若者達の中から、今や金融機関の悪事のリストを読み上げるものや、「金融機関で働くことが名誉なこと」と言うこれまでのカルチャーを変えると宣言する若者達が現れたというのです。

 99%の人々の反乱は昨年夏からOWS運動として広がったわけですが、この記事によればこれまで「1%の富裕層の卵」だった若者達からも、あまり行儀のよいやり方でなく富を独占する1%層への攻撃が始まったわけです。

 50年代、60年代に日本人が憧れを抱き続けたアメリカの豊かな中産階級がどうして99%の「非裕福層」に落ちぶれてしまったのか。9.11事件を目の当たりにしたことで米国野村証券の職を辞してジャーナリストになった堤未果さんが2006年に岩波新書から出した「ルポ 貧困大国アメリカ」はその問題を考える上で大変に参考になる本です。

 この本は2006年に出版されたものですが、そこで描かれているのは、例えば、90年代に締結されたTPPの前身であるNAFTA(北米自由貿易協定)によって農地と職を奪われたメキシコのトウモロコシ農家の人々の末路です。彼らは政府の補助金を得ているアメリカ産トウモロコシによって農地と職を奪われ、その後、職を求めてアメリカに密入国すると言う運命を辿りました。

アメリカのポップコーン工場で働く密入国したメキシコ農民の娘が自分の立場を皮肉って、次のように発言します。「だってメキシコで私の父親を失業に追い込んだのはアメリカのトウモロコシなんですよ、それで今はその娘がポップコーン工場の床をモップがけしているのですから」と。

こうした貧困層の若者や、高騰を続ける学費により学生ローンが払いきれなくなった若者たちが、そうした厳しい状況から脱出するために最終的に行きつく先は軍隊です。彼らはイラクに送られ、それまでとはまた別の厳しい現実に直面することになります。

これはTPP問題を考える上でも非常に重要なのですが、アメリカではほとんどあらゆる分野で「自由化」や「効率化」という名のもとに、民間企業の利益が優先されるシステムが出来上がっています。

医療の自由化によって保険会社は大きな利益を得る一方で、医療費は跳ね上がり一部の大都市では盲腸の手術に200万円以上かかり、病気によって中産階級層の人が簡単に破産に追いやられるケースもあります。その一方で、株式会社化され極度な利益重視のスタンスをとる病院経営によって現場の医師や看護婦などは疲弊し精神的にも肉体的にも追い込まれ、医療過誤も急増します。

アメリカでは戦争遂行も民営化され、イラク戦争において、ハリバートン社はアメリカ人だけでなく第三国からの出稼ぎ労働者を大量にイラクに送り込み潤いました。いわゆる戦争ビジネスです。

大企業が、ロビー活動によって自己の利益に都合のよいように、パートナー国との間のルールを変えてしまおうというTPPは、堤氏がレポートしているようなアメリカを歪んだ社会構造に変えて来た原動力をそのまま「パ-トナー国」に輸出・拡大しようという戦略にしか見えません。


しかしながら、最初にご紹介したブルームバーグのコラムは、アメリカの内部で企業はどんな手段を使っても利益を上げること優先するという、過去数十年の文化に明確な変化が起こり始めている兆しがあることを示しているのかもしれません。

近年のアメリカのビジネス中心の路線が多くの人々の生活をこれほど破壊するのであれば、大きな変化が起こるのは必然と言えるかも知れません。

 昨年はこうした大きな変化というか、人々の心の化学変化が非常に明確になった年でした。そして、今年はその流れが一段と大きなものとなるのでしょう。

ウォール街のデモの仕掛け人

 ウォール街を占領しろ「Occupy Wall Street」という若者達のデモがますます拡大し、毎日のように、「シカゴに伝染」「ワシントンDCに伝染」などと、全米の主要な都市へ拡散する様子が連日のように伝えられています。

 このデモの動きに対しては、「明確な主張がない」「リーダーがいない」などの指摘が主要なメディアから流されています。

 実はメディアが、こうした報道を行うのは、ある背景があるようです。

 9月の中旬に「Occupy Wall Street」運動を最初に企画して人々に呼びかけたのはエストニア出身でカナダ在住のジャーナリスト、カレ・ラースン(Kalle Lasn)氏、69歳です。70年代にカナダに移住する前は東京に在住していました。カナダの非営利雑誌「アドバスターズ」の創業者です。

 9月17日に最初のデモが企画されましたが、そのデモのポスターは、猛牛の上でスリムなバレエダンサーが踊っている絵に「WHAT IS OUR ONE DEMAND?」と書かれた何やら謎めいたものであったからです。
Occupy Wallstreet

 ラースン氏がカナダのオンライン・メディア「The TYEE」のインタビューに応じたものが最近掲載されましたが、このあたりの事情について非常に興味深い説明をしています。

 ラースン氏の言葉はかなり難解な部分もあるのですが、どうやら彼らが目指すことは、自分自身でこの運動の方向性を示すのではなく、運動に賛同する人々が集まり、集まった人々自身がどんなことを要求すべきかを熱心に議論することを促そうとしているようです。

 ラースン氏達の呼びかけは人々のいわば触媒的な役割を果たすもので、人々に「Meme(ミーム)」を植え付けるという表現をしています。ミームとは「文化を形成する様々な情報であり、人間の間で心から心へコピーされる情報(wikipediaより)」だそうです。こうした手法をとることによって、人々の心理のより深い部分に働きかけをしようとしていると語ります。

 要は何か魔法のような目に見えない心理的な伝達力で、人々に化学的な作用を起こさせ、人々が自分たちで新しい道を探すことを期待している、という感じでしょうか。

 そういう意味では、デモがどこに向かうのか、まだまだ魔法の影響を受けた人々の間で議論が始まったばかりであり、そんなに簡単に明確な方向性が見つかっていないのは当たり前の状況なのかも知れません。

 現在、デモはラースン氏の予想を遥かに超える勢いで拡大し、今月15日でには、ヨ―ロッパにおいて、初めてのデモが計画されているそうです。さらに11月3日、4日のG20の会合時には、数百万人規模が集まることもあり得るという期待まであるそうです。

 そうなると、最近中東で起こったような奇跡的な出来事がアメリカにも起こりレジーム(政治形態)が変わるという事態の可能性も否定できないような状況になってきたと、ラーソン氏は考えているようです。

もちろん、アメリカはチュニジアやエジプトなど中東とは状況が全く異なり、残忍な独裁者が支配しているわけではありません。しかしながら、議会へのロビー活動によって権力を振るって来た一部の大企業や組織が、ある意味でアメリカをコントロールし続け牛耳ってきたとも言えます。ラースン氏は、何らかの形でこのレジームを変化(regime change)させなければならないと主張します。

 さて、このウォール街占拠運動が、これからどのような道を歩むのか、どこかで内紛が起きて分裂するのか、それとも雪だるまのように膨れ上がって本当に社会を変えるような地点まで到達するのか、今の時点では何とも言えません。

 しかしながらラースン氏の考え方を読む限り、「Occupy Wall Street」の機運が、少なくとも当面の間は現在のアメリカの一部の金持ちグループが牛耳る企業に支配されている現実に不満を持つ大多数の庶民の心の奥深くを刺激し続けるように感じられます。

 きっと多くの日本人が現時点で想像している以上に大きな機運に発展していく可能性が、高いのではないでしょうか。

米国債をデフォルトの危機と米議会

 今年は本当にこれまで、考えもしないような出来事が起こる年です。

 福島の原発事故もそうですが、ムーディーズやS&Pといった米国贔屓の格付け機関が、こんなに早く米国債の格下げの可能性を示唆するとは予想していませんでした。

 といっても格付け機関が重い腰を上げたのは何も彼らの英断ではなく格付けの見直しはあくまでも技術的な問題です。

 米国の債務残高は5月時点で法定上限に達しているため新規の国債を発行することが出来ない状態です。このためオバマ政権は債務上限を引き上げる法案を提出しました。しかしながら下院で多数を占める野党共和党は大幅な財政赤字削減を伴わない債務上限の引き上げに反対しており、米国議会の協議は難航したままです。

 格付け機関としては、気持ちの上ではどんなに自国の格付けを甘く採点したくても、このままでは現実問題として連邦政府の金庫が底をつき、カリフォルニア州のような状況に陥るリスクがある限り、最上級のAAAという格付けを付与することは出来ません。

 オバマ政権の支出増路線に反対して、米国債を(少なくとも形式的な)デフォルトの危機に陥れている野党共和党を中心とした議会に対しては、「愚の骨頂」という批判の声も一部から上がっています。

 確かに、もし米国債が議会の頑固な抵抗によって、結果的に米国債のデフォルトを招く事態に至った場合には、米国の失うものは計り知れないかもしれません。

 110兆円もの借金をして米国債を抱え続けている日本政府・財務省としても、米国議会の「蛮行」は気になるところでしょう。

(余談になりますが、米政府のお金の管理も、あまり褒められたものではありません。
 
 先月、米国防省はイラク復興資金から、66億ドル(約5200億円)もの現金を紛失したというニュースがありました。イラク復興に必要として米国は円に換算して1兆円もの札束を空輸したそうですが、その半分以上が行方不明になってしまったというのです。もともとこれはイラクの石油収入や旧フセイン政権の資産で、イラク暫定政府に代わって米国を中心とした占領当局(CPA)が管理していたものです。

 尚、イラク戦争に関して言えば、戦争突入に誰よりも力を貸したチェイニー氏が大株主であるハリバートン社が、戦争の支援ビジネスなどで大儲けをしたことは有名な話です。)

 米国の中産階級の支払った税金はイラクやアフガニスタンの戦費として湯水のごとく使われてきたわけですが、今回米国の(国債増発を可能にする)債務上限引き上げに反対に回っているのは、巨額の戦費や減税を実行して赤字を拡大した前政権を担っていた共和党を中心とした勢力であるところが、少々問題のややこしいところです。

 個人的には、債務上限引き上げ反対の動機には政治的かけひきが見てとれて正直なところあまり感心できない部分も多く、それをあまり感心できない人々が叫んでいるという印象は強いのですが、いずれにしても国の予算のムダを縮小させようとする行動自体は誰かがする必要があります。

 そもそも、アメリカに限らず、一握りの人々が国家の巨額の資金を勝手に動かすことが出来ることは、現代民主主義の大きな欠点です。

 日本政府も、地震大国であるにも関わらず、テキトーな議論を並べて54基もの原発を作って来ただけでなく、自分勝手でなにを仕出かすか分からない米国の国債に、まともな議論をまったくしないまま110兆円も資金を投入してきました。

 どの国の政府も、少数の政策担当者が、巨額の国家予算を使って自分たちの利権を潤すという状態は変わりません。

 そろそろ、こういった状態に終止符を打ちたいところですが、今米国の議会で起こっていることは、その一つのヒントになるかもしれません。

今年の米国経済の行方

今年は米国経済がどうなるのだろうか?と考えてみると、実は1年前と強弱の材料はほとんど変わっていないことに気がつきました。

懸念材料は、高止まりする失業率と、カード・ローン破綻など個人の信用リスク、それに一段の下落リスクを抱える不動産市場、さらには地方政府の財政破綻懸念などです。一方でプラスの材料は、安定感を増しつつある金融市場と、好調な企業業績、さらにドル安と新興国の成長を中心とした堅調な海外経済といったところでしょうか。

材料自体は変わっていないのですが、全体とすれば1年前よりは懸念材料に対する心配は多少和らいできているかもしれません。

昨年末に10%であった失業率は、先週発表された数字では9.4%に低下しています。昨年1年間で就業者数は110万人増加していますから、若干は良い方向に向かっているといえます。ただし、過去の景気後退時に比べると改善のペースは著しく遅く、多くの失業者が失業したままの状態です。

個人破産は2008年以来急速に増加する傾向が続いてはいますが、まだ過去20年の平均的なレベルから大きく乖離している状況ではなく2005年のピークにも及ばない水準ですので、これが社会の根幹を揺るがす事態にまでは至りそうもありません。

不動産価格についても、先月末に発表されたケース・シラー指数が再び前年比でマイナスに転じるなど引き続き不安定ではあるものの、金融システムの安定化が進んでいる現状では、今のところ社会全体で穏やかに吸収することが可能なペースでの停滞といえそうです。

ケースシラー
ケース・シラー住宅価格指数:出所スタンダード&プアーズ社

唯一、地方政府の財政問題だけが、大きく懸念が高まっていて今年はこの問題がさらに大きなニュースに発展しそうな気配です。ただし、これらの懸念材料も全体としてみれば米経済に対する心配は1年前よりは少し後退しているといえるかもしれません。

好調な企業業績でありながら雇用環境が穏やかな改善しかしなかったにもかかわらず、昨年の個人消費は意外に堅調な伸びを示したことが、懸念材料緩和に大きく役立ったのですが、実はこの傾向は、米国に限らず主要国に共通していることです。

2008年10月のショックの後には、30年代の大恐慌との比較がよくなされましたが、大恐慌の際は暴落が始まってから3年間も株が下がり続けたのに対し、今の米国株は既にリーマン・ショック前に回復しています。

グリーンスパン元議長など「100年に一度の危機」と叫んでいた多くの人々は、失笑を浴びている状態で、今は大恐慌と比較する声はほとんど鳴りを潜めています。

そうはいっても人々がショックの記憶を完全に忘れて、景気や市場のマインドが強気一色で浮かれているわけではないことは、今後の暴落リスクを大きく減らすという意味で大きなプラス材料であるともいえます。

株価の動きは経済活動の結果であると同時に、経済を動かす原因でもあるので、割安な株価と慎重な投資スタンスは、極めて良い兆候ではあるのでしょう。(もちろんこういった状況が長く続くと、再びバブルが頭をもたげるのですが・・)

結論とすれば、油断は禁物ではありますが、目に見えて大きな悪材料が出てくるまでは、当面は米国経済についてあまり心配しすぎる必要は無いのかも知れません。

今年の注目点: ロン・ポール議員 対 FRB

 今月の中旬から、昨年11月の米中間選挙の結果を受けた、新しい議会が始動します。

 今年の米議会で注目されるのは、先月下院金融サービス委員会の国内金融政策小委員長に就任した共和党のロン・ポール議員の動向です。ロン・ポール議員は長年FRBを厳しく批判し「FRBを廃止しろ」と主張してきた人物で、ポール氏のことはこのブログでも過去にも何度も書きました。(例えば下の記事をご参照ください)

FRBに対する歴史の逆風

 ロン・ポール議員のことをよくご存じない方は、強烈なリバタリアン(自由至上主義者)でかつFRBを痛烈に批判する彼を、単なる過激な主張の持ち主と考えるかもしれません。実際、昨年の米中間選挙で吹き荒れた「ティーパーティ旋風」では、ポール氏の主張と一見類似しているが単なる過激な主張をしている人物が何人も登場し、彼らまでもが一定のモメンタムを獲得しました。ポール氏の強烈な主張は悪用されやすいのかもしれません。

ロン・ポール

 しかしポール氏自身は、彼の主張に賛同するかどうかは別にしても、「自由」ということに信念を貫くまったく揺るぎない人物であることは間違いありません。たとえばFRBがその創生の歴史的背景から背負ってきた「不都合な真実」に対し、何十年にも渡ってドン・キホーテのように見込みの低い戦いを続けてきました。かつては大メディアからは完全に無視され、おそらく命の危険を感じるようなことも少なくなかったと思います。

 そのポール氏が、下院でFRBの監査問題などを検討する委員会の長に任命され、メディアから少しずつその主張が報道されるようになってきたのですから、彼のドン・キホーテ的な行動が、長い月日を経てようやく次第に受け入れられるようになってきたのかもしれません。

 折しも昨年11月には、バーナンキFRB議長が、「QE2」と称して「プリンティング・マネー政策」を実施して、FRBはいかに簡単にドル紙幣の印刷が出来るのかを実演して見せました。ロン・ポール氏がこれからどうやってFRBの監査を強めていくのか、大変興味深いですね。
 

米国債の利回りはいつ大幅上昇する?

 このところ議論が続いていた、米国の所得税に関するいわゆる「ブッシュ減税」を延長するかどうかという議論は、オバマ大統領が共和党に折れて富裕層に対するものを含めて減税策を2年延長することで決着しました。

 当初は、勇ましく「金持ちの減税は続けない」と言い張っていたオバマ大統領が例によっていとも簡単に折れてしまったわけです。稀にみる演説の雄弁さを持って正しい主張をするにもかかわらず、いざ実行に移す時は「悩めるハムレット」になってしまう大統領の姿は、もう見慣れたものですね。

 本来は、財政立て直しをしなければならないのにもかかわらず、気前のよい減税を続けることを決めてしまったことで、米国の長期債金利は上昇して10年債の利回りは3.2%台に乗せました。

 10年債の利回りは、つい最近までは2%半ばをうろうろしていたわけですから、このところ利回りは随分上昇したとも言えますが、歴史的に見れば、3%そこそこの利回りは著しく低い水準です。

 実は、昨年の暮れに同僚3人で今年の年末のいくつかの相場水準あてのゲームをしました。対象の相場は、日経平均とドル円の為替相場、それから米国10年債の利回りです。

 日経平均とドル円相場については、現在の値は3人の予想値の範囲内に収まっていますが、米国債の利回りだけは皆大外れで、一番低い利回りの予想でも4.8%でした。年末まであと数週間残っていますがさすがにここまで急上昇する可能性は低そうです。

 3人は、それぞれ投資家やトレーダーを20年近く務めたキャリアがあったり、あるいは現役のファンド・マネージャーだったりですが、米国債利回り予想については見事に大外れでした。

 昨年末の利回りは3.8%前後だったので、財政悪化が続く状況下、ここまで利回りが低下するとは思わなかったわけですが、特に8月にバーナンキ議長が打ち出し11月に実行したQE2(量的緩和第二弾)が想定外でした。

 バーナンキ議長は数日前にFRBによる更なる長期債の買い増し否定した上で、「FRBが適切な措置を取っていなかったら、失業率が25%程度になっていた可能性がある」とまで述べて、正直あまりに強烈な自己正当化に唖然とさせられました。ここまで来るとほとんど独善に近いかもしれません。

 グリーンスパン前議長は自由市場と人間のモラルに対しては余りに楽観的な考えをもっていたために失敗しましたが、自分たちの行動に対しては極めて慎重かつ、並はずれた洞察力を持っていたような気がします。

 米国債の利回りはバーナンキ議長の行動によって、実力以上に低い水準に留まっているのですが、このようなやり方は往々にして長期的には全く逆の効果をもたらすものです。

 さて、財政規律の必要性は十分に理解しているように見えるが、全く実行力の伴わないオバマ大統領と、学者肌で自己の学説への過大評価と現実世界の洞察力のなさを併せ持つバーナンキ議長というコンビは、実は長期的な視点では米国債市場に全く優しくない組み合わせなのかもしれません。

 昨年の相場予想を大きく外した負け惜しみのようではありますが、来年か再来年あたりには、米国債の利回り上昇が大きな話題になりそうな気がします。

米国のティー・パーティー旋風

米国の中間選挙は、予想通り共和党の圧勝となりました。

 今回の選挙の主役は、オバマ大統領でなくティー・パーティー運動でした。「テ
ィー・パーティー運動」とは、英国の重税政策に反抗し独立運動の前哨戦とな
った「ボストン茶会事件」(Boston Tea Party)から名前をとった、保守派の運
動の事です。

 もともと米国のリバタリアン(自由至上主義)の代表のロン・ポール下院議
員が、数年前に「ボストン茶会事件」を祝する会を催したことから、この歴史
的事件の名前が蘇ったとされています。

 ロン・ポール議員は、極端とも思われるほど徹底して政府の介入を嫌う「小
さな政府」主義者で、民主党オバマ政権の医療保険に関して政府の役割が増大
するのに猛烈に反対しただけでなく、かつては共和党ブッシュ政権のイラク戦
争を厳しく批判しました。

 米国の伝統は、国民に対しても外国に対しても、政府は関与しないところに
あるという考えで、その矛先は党派に関係ありません。

 昨年2月頃からは、オバマ政権が打ち出したさまざまな財政出動による金融
危機からの脱出策を「税金の無駄使い」であると批判する人達が、ロン・ポー
ル議員の活動を離れて、各地で自発的に「ティー・パーティー」と名乗った活
動を始めたようです。

 特に、オバマ大統領の医療改革法案の議論を巡っては、国民の意見が大きく
割れて、「政府の関与によって国民の自由が奪われる」ことに反対するティー・
パーティー運動が盛り上がりました。

 ティー・パーティー運動は、当初は「小さな政府」を主張する人達のまとま
りのないバラバラな活動であったのですが、2年前の大統領選挙で、共和党の副
大統領候補だったサラ・ペイリン氏を担ぎ出すなど、次第に共和党保守派の組
織的な運動に組み込まれようと変質している一面があるようです。

 余談ですが、サラ・ペイリン氏は次期大統領選挙の有力候補と言われていま
すが、個人的には大統領というよりは、田中真紀子氏的な人気という気がしま
す。

 ペイリン氏らの主張は、財政削減と言う意味ではロン・ポール議員の考えと
一致していますが、タカ派的な外交面という意味では全く見解が異なっていま
す。

 こういった状況に対して、徒党を組んで政治を行うタイプでないロン・ポー
ル議員は、ティー・パーティー運動が米国の伝統的な姿に戻るという当初の基
本的な信条と離れて来ていることを懸念しているようです。

 さて以上、ティー・パーティー運動について説明してきましたが、ロン・ポ
ール議員の考えが、今の米国人の心を掴む何かがあることは分からないではあ
りませんが、この運動が(ロン・ポール議員自身も望んでいない)どこかアブ
ナイ場所に行ってしまう危険も感じます。

 どうやら、今は、世界中の政治が不安定になってきている時期のようです。

教師のクビを切る米国の自治体

 米国の地方自治体の財政問題における不美人コンテストでは、1年ほど前まで
のカリフォルニア州優勢という評価から、最近はイリノイ州が先頭を走る状況
に変化しているようです。

 イリノイ州では、先月、米国債に3.25%ほどのリスクプレミアムを上乗せして、
ビルド・アメリカン・ボンド(BAB)と呼ばれる債券を発行したことで話題にな
っています。BABは、国や州政府や長期的なインフラ投資などを行うための資金
調達を、政府が通常の地方債発行よりも大きな補助を行うことでサポートする
プログラムで、昨年制度が出来たものです。
 
 さて、先日の英FTは、イリノイ州が、とうとう教育費にまで大ナタを振って
公立の学校の教師数を22%も削減する計画だと報道しています。
 
 学校の先生をクビにするということが、どういうことを意味するのか日本で
は分かり難いかもしれませんが、NHKは「アメリカ・カリフォルニア ピンクス
リップの恐怖」というドキュメンタリーをBSで放送しています。
 
 「ピンクスリップ」とは、ピンク色をした解雇通知のことで、これがある日
突然送られてくるというのです。
 
 カリフォルニアの例では、解雇の対象となるのは、勤続期間が2年以下で専
門科目の資格を持たない教師で、そういうカテゴリーに当てはまれば、子供た
ちから信頼されている先生であっても問答無用に「ピンクスリップ」が送り付
けられます。
 
 教師が突然大量にいなくなった学校では、大人数の教室に変更され、授業時
間も削減され、大人達の理不尽な行動を目の当たりにした子供達の心は荒びま
す。
 
 カリフォルニアでは、住民が増税に抵抗しているために、昨年とうとう教育
費に手がつけられたのですが、その結果公立学校が崩壊状態になっても、富裕
層の子供達は私立学校にシフトするだけなので、金持ちの間では社会問題にな
りません。

 イリノイ州の場合、財政を圧迫しているのは、気前の良い支払い約束をする
公的年金のようですが、社会全体にお金がないわけではないのに、政府はお金
のある人から増税をしたり公的サービスを削減したりすることは難しいようで
す。

 国や地方自治体の財政がいかに悪くても「増税はイヤ」という現象は、日本
でも先般の参議院選挙で観察されました。

 「デフレ」については、日本が先進国共通の病気の「さきがけ」になりまし
たが、「財政問題の末路」という意味では、米国の地方自治体が「さきがけ」で
あるかも知れません。その意味で、今後の展開が大いに注目されます。

米国の医療保険改革の陰

 オバマ大統領の歴史的な医療改革法案の下院通過は、数千万人の米国の無保
険者が大きく減る可能性があるという意味でも、オバマ大統領のリーダーシッ
プが発揮されたという意味でも、非常に良いことだったと思います。

 ただし、医療改革に反対した人々の意見の中にも、傾聴すべき指摘がありま
す。今日はそのことを書いてみます。

 米国の医療制度の問題が国民皆保険になれば問題がすべて解決というわけに
いかないのは、米国の医療費がなぜバカ高いのかという問題が残るからです。

 米国では医療費がGDPの16%もかかっていて、これは世界でも突出して高い数
字です。OECDの2007年の統計によれば、2位のフランスが11%、日本は主要国
では最も低い部類で8.1%です。

 米国に在住した経験のある知人からは、驚くほど高い医療保険のことや、盲
腸の手術で200万円以上の費用がかかる話をよく聞いていましたが、統計上の
数字でも明確にそれが反映されているわけです。

 当然一人当たりの医療費も世界で突出して高いので、これが大量の無保険者
を生む大きな要因になっています。

 どうしてこれほど医療費が高いのか?という問いへの答えの一つは、他の
国々に自由競争を説く米国なのに自国の医薬品については製薬会社の強力なロ
ビー活動もあり、ほとんど競争にさらされていないからだそうです。

 薬品を買うには隣のカナダまで出かけていった方が遥かに安いのだそうです。

 保険会社も独占的な地位を利用して、値上げを続けて来ました。

 医療改革に反対する共和党の議員の一部は、過去100年の医療に対する国家
の介入が積み重なって独占・寡占を許し、今のような異常に高い料金が形成さ
れたという主張をしています。

 彼らは、これ以上の医療費拡大をする前に、医療のコストを低下させて、国
の助けがなくてもより多くの人々が医療を受けられるようにすることが先決だ
というのです。

 しかし今回の医療保険改革によって、製薬会社はさらに売り上げを伸ばすこ
とが見込まれてホクホク顔のようです。それからオバマ大統領は高い保険料を
値下げさせたいと期待しているようですが、実際には一人あたり平均で10%以上
の値上げになるのではないかとの見方もあります。

 医療保険改革はただでさえ強力なロビー活動で稼いでいる医療関連業界を更
に太らせることになりかねないわけです。

 こうして見ると、米国の医療の問題は、金融界並みの強い政治力を発揮して
異常に高い医療費を国民に押し付けている医療業界の問題と、無保険者の問題
の両方が非常に重要な問題であったのです。

 今回の改革で後者の問題は改善されることは期待できそうですが、一方で巨
額の税金がさらに医療業界流入にするという事態になりかねません。

 米国という国家は金融、医療、軍需、エネルギーの4つの産業に牛耳られて
いるという指摘がありますが、その状況をますます悪化させることにならなけ
ればよいのですが。

 というわけでオバマ大統領のリーダーシップは素直に評価したいのですが、
これはなかなか複雑な問題で、もう少しじっくりと様子を見ないといけないよ
うです。

米議会はかつてのポーランド議会?

 先日クルーグマン教授がNYタイムズに面白い記事を書いていたのでご紹介い
たします。

 ポーランドがかつて領土・文化の両面で欧州の大国であったことはご承知の
通りです。

 16世紀のポーランドでは「貴族共和制」または「貴族民主制」とよばれる政
治システムが発達します。これは国王が「君臨すれども統治せず」の状況であ
る一方で、貴族はセイム(SEJM)と呼ばれる議会を支配し、その貴族は稀に見
る「自由と平等」を享受するシステムで、「黄金の自由」とも呼ばれました。

 クルーグマン教授によれば17世紀から18世紀にかけて、ポーランド議会で
あるセイムは「全会一致」の原則を掲げ、誰か一人が「私は同意しない」とい
えば法案は何も通過しなかったそうです。その結果ポーランドは統治不能にな
り近隣の大国の餌食となり1795年には消滅したと言います。

 さて、教授は現在の米上院がこのときのポーランドのセイムそっくりだと言
うのです。

 例えば、アラバマ州選出のリチャード・シェルビー上院議員は、オバマ政権
の70人以上の高官任命を人質にして、対テロ・センターのタンカー契約を獲得
しました。

 また先週上院が9カ月かけてようやく最終的に承認した政府独立機関である
一般調達局の局長人事については、人選自体には誰も異論はなかったにもかか
わらず、ミズーリ州選出のクリストファー・ボンド上院議員が地元カンザス・
シティの建設プロジェクトの承認に圧力をかけるために、承認を引き延ばして
来たそうです。

 なぜ、一人の議員がこのような力をもつのか。教授は、上院ではすべてを台
無しにすることさえしなければ、気に入らない被任命者の承認を遅らせること
が出来るという伝統が形成されてきたと言います。

 この「保留」が出来るという伝統は、かつては上院議員間の礼節や相互信頼
があったために乱用されることはなかったが、時代が変わったようです。

 伝統乱用の最悪の例は、1995年にギングリッチ議員がクリントン政権に医療
保険支出の大幅削減を求めて、連邦政府のファンディングの上限をカットして、
政府を一時機能停止に陥れたことだそうです。

 現在、共和党は、政府の財政支出拡大策に対してあらゆる反対を行っていて、
先日のマサチューセッツ州補選で敗北し、議事妨害を阻止できる安定多数であ
る60議席を割り込んだ民主党はそれに対抗できないといいます。

 米国の「民主主義の衰退」に関しては、カリフォルニアの衆愚政治、企業の
ロビー活動による国民の権利縮小などをご紹介してきましたが、クルーグマン
教授の嗜好に同調するかどうかは別にしても、米議会の活動にも病気の症状が
発症していることは間違いなさそうです。
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