グローバルな金融経済の動向を、ユニークな視点を交えてお伝えいたします。

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中国経済の持続性への懸念

 先週の週末、中国の英字新聞チャイナ・デイリーは、中国人民銀行の元通貨政策委員のYu Youngding(余 永定)氏のコラムを掲載しました。

余氏は、中国経済運営の要職を務めたばかりでなく中国国内でも有数の経済学者として知られているようです。掲載されたコラムでは、中国経済や政治を内側から知り尽くした余氏が、中国経済の今後の成長について、海外の甘い幻想を打ち砕くような厳しい指摘をしています。

余氏の指摘を簡単に要約すると、これまでの中国の高成長は、地方の役人主導の「ハコモノ」建設に依存する部分が大きく、その中には過剰に豪華で無駄なものが多く資本効率は非常に悪いということです。その一方で、中国の公害は世界最悪となり、また国内の新しい技術に関するイノベーションは育っておらず 国民に必要な公共サービスにはお金が回っていないとも指摘しています。

特に問題なのは、政府と企業の癒着体質によって、経済成長にもかかわらず貧富の差は拡大していることで、中国は「金持ちと権力者の資本主義」であるという評価も紹介しています。そして、このような好ましくない状況に対して、中国の体制は本来なら能力の高いエリートが指導することで改善するはずなのに、実際にはそれとは程遠く、おべっかや冷笑が支配している状況であり、問題の是正は難しいとしています。

このような余氏の指摘は、ひとつひとつは必ずしも目新しいものではありませんが、中国経済の抱えるアキレス腱としてこれまでも断片的には指摘され続けてきた問題を、中国内部の有数の識者が率直に認めたという意味で、大変に興味深いものでした。

 過去20年の奇跡的とも言える中国経済の成長を目のあたりにすると、実際現地でどんなことが起っているか分からない海外の人間は、ついつい中国の経済システムが優れたもので日本やアメリカを打ち負かすように思えてしまいます。

しかし、現在の中国の躍進も、実際にはバブル期の日本と同様に、表面的な好調さの陰には大きな構造的な問題を抱えていて、長期的な持続性に関しては非常に疑わしい部分があるのかもしれません。

 ただし、そうは言っても必ずしも来年や再来年という近い将来に、そのような大きな構造問題が明らかになるわけではなさそうです。例えば中国の高速鉄道網は現在7000キロ強が完成しているのに対して、2020年までに1万6千キロに拡張する計画です。(日本の新幹線網は3600キロ強)

 この計画に今後5年間だけでも最大50兆円以上の投資をするというのですから、中国のハコモノやインフラ整備の投資は当面は衰えることはなく、経済成長を押し上げ続けるのでしょう。

 ただ、中国は、日本や欧州から供与された高速鉄道技術を「国産技術」として米国など海外にチャッカリ売り込もうとさえして、一部の激怒を買っているようですが、このようなモラルの欠如というのも、間違いなく長期的には中国の成長の足かせになるのでしょう。

さて、来年もまた日本は、中国や朝鮮半島発の隣人たちのニュースに振り回されそうな1年になりそうですね。
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中国のトップ・エコノミストが見た中国経済の脆弱性

 先週、中国の英字新聞China Dailyが大変興味深い記事を掲載しました。

記事を書いたのは、中国社会科学院世界経済政治研究所長でかつて中国人民銀行(中央銀行)の通貨政策委員も務めたYu Yongding(余 永定)氏です。ある意味で中国の指導部トップの一角を占めるようなキャリアの人物が、かなり率直かつ適切に、中国経済の脆弱性について書いたのはある意味で驚きです。

http://www.chinadaily.com.cn/opinion/2010-12/23/content_11742757.htm

過去30年にわたる中国の急激な成長モデルは、既に消耗している可能性があるというのがその趣旨ですが、以下に余氏の発言を簡単に要約してみます。

<記事の要点>

 中国の過去の急激な成長は、非常にコストがかかり効率が悪いもので、中国の(GDPに占める)投資の割合は50%を超えている。そしてその中身には、地方政府の裁量部分が非常に大きいことと、不動産関連の投資の比率が高すぎるという2つの大きな懸念材料がある。

 一部の地方政府は穴を掘っては埋めるだけといった支出を繰り返し、その結果、贅沢なコンドミニアムや豪華な政府のビルが(必要以上に)乱立し、西側の5つ星ホテルが安っぽく見えるような豪華なホテルまで地方に建っている。

 中国は世界最悪の公害国家となり、経済は輸出に依存し過ぎ(GDPの30%)である一方で、国内のイノベーションは欠如していて、例えば国内企業の新車開発はほとんど行われていない。

 さらに、政府は公共サービスを供給することに失敗し、貧富の格差は大きな経済成長を遂げたにもかかわらず、かえって拡大している

 何よりも庶民を憤らせているのは、政府と、ビジネス界の結託(癒着)で、中国国内にもこれを「金持ちと権力者の資本主義」と呼ぶものさえある。

 こういった状況を打破するには、現行の中国の体制ではエリート主義による優れた統治が必要になるが、政治はおべっかと冷笑によってむしばまれている。

 グローバル社会における中国の成功は、賞賛だけでなく、ねたみ、懐疑や嫌悪感までも生んでいるが、これは新しい勢力の台頭時によくあることである。中国は環境や、世界の金融の不均衡などのよりアクティブな役割を果たすべきである。

<記事の要約終わり>

5%を超えた中国の物価上昇率

 先日発表された中国の11月の消費者物価指数(CPI)は5%を突破しました。これは2年ぶりの高水準です。

中国の国家統計局のサイトで明細を見ると、果物の上昇率が前年比28%、野菜が21%、卵が17%という具合に食料品価格の上昇が突出しています。(食料品全体では11.7%の上昇)他には医療費や住居費が4,5%の上昇をしていますが、衣類や交通通信費などは若干下落しています。

つまり、物価の上昇はすべての商品にまんべんなく起こっているのではなく、工業製品などは日本と同じように値下がりしているわけです。

野菜や果物の価格上昇にはいくつかの要因があるようです。一つは経済全体の拡大に伴う需要の増加、さらに天候不順や生産コストの上昇に加えて、マメやニンニクなどある程度の保存の効く一部の商品は投機の対象になっています。

 例えばニンニクについては、昨年の春から今年の夏にかけて価格が信じられないような上昇をして、この間卸値が20倍近くに上昇したと言います。もっとも、最近になって「ニンニク・バブル」が崩壊して価格の急落が始まったという報道もあります。

 こういう現象をどう見るか、見方はさまざまでしょうが、バブルを引き起こすにはそれなりに大きなエネルギーが必要であることも、間違いありません。

 20数年前の日本には、大きなバブルを起こすエネルギーがありましたが、今はそういった元気もなくなったと言える気がします。

 さて、いろいろ要因はあるのですが、その結果として起こっている食料品価格の大幅上昇の影響を最も強く受けるのは、エンゲル係数の高い庶民です。

 そもそも体制の正当性に欠ける一党独裁制の中国共産党としては、ただでさえ言論の自由などに対する内外の不満が高まって来ているなかで、あらたに庶民の不満が高まるような状況を放置したくはないでしょう。

 とはいえ、多少金融を引き締めたところで大きな効果は期待できず、結局それほど有効な対策は持ち合わせていないのかもしれません。

 中国の食料品価格情勢は、世界の政治と経済にとっても一つの大きな不安材料と言えるのかも知れません。

中国とナチスは似ている?

 劉暁波(りゅうぎょうは)氏をノーベル平和賞に選出したことは、どうやらノルウェーの選定委員会が想定した以上の成功を収めたかもしれません。

誰も座っていない椅子の上に置かれた、平和賞の証書は世界中のメディアによって報道され、現在の中国の政治体制のスタンスを象徴するようなイメージになりました。

 10日付けの英エコノミスト誌の記事では、今回の中国の(平和賞授与にたいする)怒りは、1975年にサハロフ博士の平和賞に対する旧ソ連の激怒に似ているが、今の中国政府の態度は、実際にはナチス・ドイツにより似ていると書いています。

 本人も家族も出席しない平和賞の授与式は、1935年の、ドイツの平和運動家のカール・フォン・オシエツキー(Carl von Ossietzky)氏の時以来の出来事です。このときはベルサイユ条約に違反する軍拡を自国が推進していることを非難するオシエツキー氏を、ヒトラーが強制収容所に収容していました。

 この平和賞授与に怒ったヒトラーは、以後ドイツ人がノーベル賞を受賞することを禁じる措置を取っています。

 エコノミスト誌は、中国がナチス・ドイツと比較されることに極度に神経質(prickly)になっていると言います。そして1936年のベルリン・オリンピックに反対したように、2001年に北京でオリンピックが開催されることが決まった際、「このような政府には、人間としての尊厳を促進するスポーツ・イベントの開催という栄誉を与えるべきでない」と言って反対したそうです。

 中国がナチスと対比されるのを嫌がるのは、それが西側諸国にとっては旧ソ連に対するものより、本能的な嫌悪感を引き起こすからだと言っています。

 さて、そう言われてみれば、オリンピック開催に、誰もいない椅子に置かれたノーベル平和賞の証書など、ナチスに似ていなくはないのかもしれません。

筆者がこれまで何度も書いてきたことですが、今の中国の体制はこのままの形で長期に渡って持続可能であるとは思えません。そうすると、問題なのは、中国の政治体制が変わる前に近隣諸国を荒廃させるような戦争や紛争を伴うのか、それともあまり血を流さずに変化が実現されるかということです。

 後者であることを祈るばかりです。

中国のインフレ懸念

 先日、中国の人民銀行が今年5回目で今月だけでも2回目の預金準備率の引
き上げを実施しました。一ヶ月間に2度も引き上げをするのは、極めて異例な
状況であると言えます。

 中国の預金準備率とは、中央銀行である人民銀行が市中銀行から強制的に預
かる資金の比率のことで、預金準備率を引き上げることによって、市中の銀行
から余剰資金を吸い取る効果があります。

 金融引き締め策は、これ以外に利上げがあって、中国は、先月中旬に2年10
カ月ぶりの利上げを発表し、この時は少し唐突感があったので、関係者を驚か
せました。

 人民銀行は、早ければ今月中にも今年2回目の利上げを実施する観測が高ま
っています。

 このように、中国の金融当局が厳しい金融引き締めモードにあるのは、不動
産や株式に対する投機資金が流入していることや、インフレ率が10月には4.4%
まで上昇しているからです。
 
 中国では食品価格などが数十パーセントの大幅値上がりをしていて、国民の
不満が高まっています。実際のインフレ率は政府の発表する数字より遥かに大
きいのではないかと思われます。

 中国では、労働者の賃上げも急速に進んでいて、先日の英FT紙では、中国企
業でさえ「安い労働力」を求めて、バングラディッシュやベトナムに進出する
ことを検討していると伝えています。

 米アップルやヒューレット・パッカードなどの製品を受託製造するフォック
スコンという中国の大手メーカーの工場で次々に自殺者を出して、世界中に波
紋を呼んだのはわずか半年ほど前のことです。

 その後、フォックスコンは30%の賃上げを実施しました。賃上げ要求の余波は
日本企業を含む多くの企業にも次々に及んで、工場でストライキによる操業一
時停止から2,3割の賃上げによる解決というパターンが、あちこちで見られま
した。

 こうやって賃上げを獲得した労働者たちにとっても、豚肉や野菜などの食料
品が同じぐらい値上げされてしまうので、またすぐに賃上げの要求が出てくる
のでしょう。そして、工場での賃上げは、やがて工業製品の価格にも反映され
ることになります。

 高度成長期に、物価と賃金がスパイラル的に上昇するのは、かつて日本も経
験したことですが、中国は社会構造の変化にともなうインフレという意味でも、
急激に日本の歩んだ道を追いかけているのかもしれません。

 ただし、昔の日本と大きく異なる点もあります。全体的には急速の豊かにな
る一方で、国民の間で、インフレに加えて、富の偏在や言論の自由がないとい
う面での不満も急速に高まりつつあることです。こういったことが、中国の政
治に不安定な状況を生みだしている一因になっていることは間違いないでしょ
う。

地殻変動が始まった中国

本メルマガで「揺れ動く中国の共産主義」と書いたのは今からちょうど3週
間前のことですが、その後の展開の速さには、驚くばかりです。

 展開の早さという意味は、習近平氏が次の最高指導者に内定したなどという
表面的な意味でなく、中国の一党独裁政治の基盤の不安定さの実情が、急速に
ネットの世界などで報じられるようになったという意味です。

 これは、尖閣諸島、レアアース問題、劉暁波(りゅうぎょうは)氏のノーベ
ル平和賞受賞から、習近平氏の後継者争いにおける勝利という一連のイベント
が起きたことによって、世界の多くの人々の関心が中国問題に集まり、アンテ
ナの感応度が高くなったことが一つの要因なのでしょう。

 中国人の友人によると、最近は、中国国内からさえも当局の監視の目をかい
くぐって、ブログやツイッターを使って、一党独裁を厳しく批判するものを含
めて、さまざまな情報が流されるようになって来ていると言います。

 そんな情報の中で、興味深かったものは、中国の最高指導者選出の基準に関
するものです。中国共産党のトップを選ぶ時には、政治家としての資質云々以
前に、最も重要な基準が2つあり、毛沢東時代以来その基準によって指導者の
選抜が行われ、それは今回の習近平氏選抜も全く同様であるというのです。
 
 一つの基準は、前任者の仕事を否定しない人物であることで、これによって
前任者は後継者に粛清されることを防ぎます。
 
 もうひとつの基準は、中国共産党の幹部やその家族が得ている巨大な利権の
邪魔をしない人物であるということだそうです。特に美味しい利権は国営企業
の幹部に親族を送り込むことで、かれらは一般の人々の想像も出来ない優雅な
暮らしをして、子弟は海外に留学させ、権益で得た巨万の富の一部は海外の銀
行の秘密口座に移動、といった状況であるそうです。
 
 現在の最高指導者である胡錦濤氏の選出は、トウ小平氏の意向によるものだ
そうですが、強力な指導力を持たない胡錦濤政権においては、特にこのような
利益グループのバランスをとることが重要になっているそうです。

 これとは対照的に一般の中国人の状況は厳しいようです。中国には、人民が
地方政府の腐敗や横暴を北京の中央政府に直訴する「上訪」という制度がある
そうですが、最近では地方政府のみならず中央政府までもが、一部の企業を使
って困った人々が「上訪」するのを阻止して、人民の悲痛な叫びを握りつぶし
ていると言います。

 こういった、中国の一党独裁の矛盾点を指摘する声は、ネットを通じて着実
に増えていて、尖閣諸島問題以降は、英語や日本語でもそういった情報を見か
けるようになりました。そして、それらの情報は概ね整合的であるように見え、
比較的信ぴょう性は高いように思われます。

 ただし、中国人の友人によれば、中国国内では、情報統制されているなかで
貴重な情報にアクセスする術を心得ている人はごくわずかで、大多数の人々は
今だに何も知らないそうです。

 とはいえ、中国の地殻変動は既に始まっているのかもしれません。筆者は、
世界情勢には目を光らせているものの、中国問題の専門家でも何でもありませ
ん。その筆者のところにさえ、ある程度の情報が流れ込んで来ているわけです
から、水面下の情報量は相当に増えているのでしょう。

 現代の情報の特徴は、ネットなどを通じて幾何級数的に広がって行くことで
す。中国の一般の人々が、情報統制を受けていても、さまざまな経路を通じて、
自分の国の本当の姿に気づくのも、実はそれほど遠い将来ではないという気も
します。

 その時、いったい何が起こるのか、日本や日本の企業活動との関係はどうな
るのか、ということは、今のところ全く想像出来ません。

揺れ動く中国の共産主義

 リーマン・ショックからの2年間で、中国に対する世界の見方はジェット・
コースターのように変化しつつあります。

 ショック後に底なし沼に落ちたかも知れないという恐怖から世界経済を救っ
たのは、紛れもなく中国の大胆な政府支出です。その際は、一党独裁政権の素
早く大胆な統制力の方が、有象無象が右往左往する民主主義体制より効率的に
機能するように見えました。

 しかし、たった2年間で状況に大きな変化の兆しが出て来ています。拡大を
続ける巨大な一党独裁国家が、他の世界と上手く折り合いをつけることが難し
いことが急速に明らかになってきたからです。

 投獄されている反体制作家にノーベル平和賞が贈られたことに対して、中国
政府がノルウェー政府に噛みついたことに象徴的されるのですが、一党独裁国
家はその内部の発生した矛盾を、乱暴な形で外部にぶつける以外に打つ手がな
くなっているかも知れません。

 先日の英エコノミスト誌では、中国共産党はこれまで「普遍的価値を追求す
るな」と説いたのに対して、いまは追求しないだけでなく普遍的価値と「敵対」
するようになってきたと書いています。

 「普遍的価値(universal value)」とは、自由や民主主義といった旧西側資
本主義諸国の価値観です。

 中国共産党は「普遍的価値は追求するな」という建前を続けてきたものの、
実は過去30年に渡って、自由や民主主義という概念が活字に登場する機会は着
実に増えて来たと言います。ただし、そういった議論を共産党の保守派が躍起
になって押さえようとしてきたというのです。

 2007年には温家宝首相が「科学、民主主義、法の支配、自由、人権は資本主
義だけのものでなく、人類が長い歴史で共通して追求してきたもの」というよ
うな進歩的な意見を人民日報に掲載して、中国の民主化への動きが進展したの
かと思われた時期もありました。

 しかし、最近は逆の方向に振り子が動いているようです。先月、次期国家主
席の有力候補者である習近平氏が行ったスピーチでは、「普遍的価値」追求を容
認する姿勢を示唆するところは全くなく、逆に共産主義者としての価値に最重
点を置くという内容だったそうです。

 過去30年間、中国の独裁政党は経済的には西側流の手法を容認して世界第二
のGDPという地位を獲得することに成功したわけですが、このまま政治的にも
「西側化」してしまった場合は、自分たちの権威基盤が揺らいでしまうという
危機意識を強めているのでしょうか。

 最近の中国政府が対外関係で示しているエキセントリックで強硬な態度には、
このような「普遍的価値」に対する攻撃姿勢が反映されているのかもしれませ
ん。つまり、自分自身の内部で起こっている、「揺れ動き」が大いに反映されて
いるものと想像されます。

 尖閣諸島問題では、小平氏が「封印」してきた方向性からの転換が起こっ
たという観測があります。しかし、どうやら、転換期を迎えているのはこの日
本との領土問題という局地的な問題だけでなく、一党独裁の政治体制のまま、
経済だけ西側流の拡大に走るという、小平氏以来の中国が歩んできた道その
ものなのかも知れません。

レア・アース

 尖閣諸島問題でクローズ・アップされた、希少な資源レア・アースについて
は、最近では国内より米国で議論が高まっているようです。米政府や議会で中
国への過度の依存から脱却する施策を検討しているといった報道が次々に行わ
れています。

 レア・アースとは、17種類の希少な元素の総称です。原子番号順に並べると、
21のスカンジウム、39のイットリウム、そのあとは57のランタンから71のル
テチウムまで15元素(これらをランタノイドと呼ぶ)の合計17です。

 理科系の勉強をされた方であれば、高校の化学の時間に元素周期表を覚えた
記憶があると思います。残念ながら筆者にとっては、元素周期表はすっかり忘
却の彼方にあり、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)ぐらいは、確かに勉
強した覚えがありますが、原子番号57以降の元素は、かなり怪しい記憶しか残
っていません。

 これらの17の元素は、例えば光磁気ディスクに65番と66番が必要といった
具合に、バッテリー、液晶ガラス、超強力磁石、蛍光体などの製造にそれぞれ
いくつかのレア・アースが使われているらしいのです。

 この結果、レア・アースが無いと、携帯電話や液晶テレビ、ハイブリッド・
カーの製造が滞ってしまう可能性があるわけです。

 詳しいことは知りませんが、過去のハイテク製品の開発にあたって、試行錯
誤の末にこのようなマイナーな元素を高純度で使用する方法に到達したのでし
ょう。かつては日本がレア・アース需要の半分以上を占めると言われていまし
たが、現在は中国が消費量においても最大になっているようです。
 
 レア・アースの生産は現在でこそ、中国が9割以上の独占率を誇っています
が、第二次大戦直後はインドとブラジルが生産を独占し、その後南ア、そして
米国へとその地位が移りました。近年は中国の内モンゴル地区にある不純物質
が少ない炭鉱から、安価なレア・アースが量産されるようになり、価格で他の
生産地を駆逐してしまったようです。

 このようにレア・アースの資源自体は、世界各地に点在するようですが、最
近は中国に任せきりになっていたので、他の地域では精製技術や生産体制が失
われてしまっていたようです。

 中国がレア・アースの輸出を渋るのは、今回は尖閣諸島問題での脅し材料と
してですが、もともとは自国内での需要が急増していたためであり、既に数年
前から輸出量を大幅に絞り込んできています。
 
 このような事情があるので、レア・アースの中国への過度の依存に関する産
業界の問題意識は以前から高く、今回の事態でマスコミや政治が騒いでいるの
と対照的に、国内の産業界は冷静なスタンスです。

 中国以外にも、カザフスタンやベトナムなどを開拓し輸入先を多角化するこ
とや、レア・アースの使用料を大幅に減らすハイテク部品の製法の開発、それ
に資源の備蓄や、いわゆる都市鉱山に眠っている資源の再利用など、さまざま
な対策が既に検討されているようです。

 安全保障的な観点も加えて、近年のレア・アース価格の高騰が、中国以外の
生産を採算ベースに乗せているという要因もあり、レア・アースのかつての独
占的な生産国であった米国が量産を再開するのはさほど遠い将来ではなさそう
です。

 いずれにしても、今回の尖閣諸島問題は、日本や米国の政治家が産業界の長
年の訴えに突然耳を貸す機会になったことは間違いなく、中国としてはレア・
アースの供給の独占的な地位を、自ら脅かす皮肉な結果になるのかもしれませ
ん。

尖閣諸島問題で分かったこと

 今回の尖閣諸島問題は、筆者を含めて大多数の日本人にとって初めて目の当
たりにした、身近で生々しい領土紛争だったのではないでしょうか。

 近年頻繁に垣間見られるようになっていた中国の膨張主義的なスタンスが、
日本に対しても発揮され、さらに中国が生産を独占するレア・アースを脅し材
料に使ったことは、欧米でも大きな関心を呼んでいます。

 山本七平氏がペンネームで書いた「日本人とユダヤ人」で「日本人は、水と
平和はタダと思っている」という主張をしたのは1970年のことです。

 今回の出来事によって、多くの人々に「タダでは無いのかも知れない」とい
う意識を芽生えさせるきっかけになるかもしれません。

 しかしながら、国の安全の意識が高まることは良いことですが、あまりカッ
カし過ぎるとロクなことはありません。相手の状況を冷静に観察し分析するこ
とも、非常に重要であると思われます。

 そういう視点では、今回の中国の動きにはいくつか不可解なポイントがある
ように思えます。

 まず、中国が単に国を挙げて膨張主義に走っているのであるとすれば、今回
の尖閣諸島問題における事の進め方は、非常に下手な行為に思えるからです。

 漁船が巡視船に衝突したという事件をきっかけに、一気に領土を占領するな
らともかく、中途半端な威嚇行為で終わらせるのであれば、日本をはじめとす
る国際社会に中国警戒論を盛り上げる結果となり、これは本来の膨張政策によ
ってかえって障害になる可能性が高いからです。

 実際、今回の事件をきっかけに日本は対中国の防衛力強化に、大きく舵を切
ることになるのでしょう。

 さらには、資源供給を人質にするような行為は、中国の海外における資源獲
得の動きに対する警戒感を一層高めることは必至でしょうし、中国との経済取
引全般に対するリスクも強く意識される結果となります。

 そう考えていくと、今回の事件は何を目指したことなのか、良く分からない
ことになります。少なくとも、国を挙げて何か長期的な目標をもって計画的に
行った行為ではなさそうです。

 もちろん、膨張主義的であまり長期的な計画性のなさそうな勢力が存在して
いて、彼らの相対的な勢力の拡大と行動の過激化があることは間違いないので
しょう。

 一番連想しやすいのは、かつての日本やドイツであったような、気持ちばか
り先走った「青年将校」の暴走という構図でしょうか、ただし筆者にはこの辺
の実際のところは何も分かりません。

 膨張主義的な勢力は、なぜ膨張を求めるのか、それはなにか現状に対する不
満が原因なのか?こういったことも謎です。

 いずれにしても、現在中国の国内のパワー・バランスが不安定な状態になっ
ていることだけは間違いないのでしょう。そうでなければ、この不可解な事件
を説明することは出来そうにありません。

 もしかすると、中国国内の地殻変動が起こるのは、そう遠くない将来である
かもしれないという気がしてきました。

世界第2位の中国経済

 昨年後半ごろから、中国が日本のGDPを抜く秒読みが始まっていましたが、
先週発表された日本の統計発表で、第2四半期の数字が、とうとう逆転したこ
とが明らかになりました。

 言い方を変えると、今の日本と中国の経済規模はほぼ同じであるわけです。

 しかし、中国には日本の10倍以上の人口がいるわけですから、主要な交通手
段が自転車だった時代はともかく、多くの人がテレビや冷蔵庫の購入はもちろ
ん、自動車までも乗り回している現在は、実体的には中国経済の方がずっと大
きいような感覚があります。

 実際、昨年のGDPを購買力平価(PPP)で比較すると、中国の8.79兆ドルに
対して日本は4.13兆ドルで、半分以下です。PPPベースでは、10年近く前にGDP
の逆転は起こっています。

 一人当たりのPPPベースのGDPは日本の32,600ドルに対して、中国は6,600
ドルで、ちょうど5分の1ぐらいです。

 まあ、こちらの数字の方が、現時点の経済の規模と言う意味では実感に近い
のでしょうか。 1人民元は現在12円台半ばぐらいですが、28円ぐらいで考え
ると、購買力が同じぐらいという計算になります。

 話は横道にそれますが、筆者はこの「購買力平価」という尺度はあまり好き
ではありません。それは、日本のスーパーに並んでいる商品と、海外のスーパ
ーに並んでいる商品をとても同じ品質として比較することは出来ないからです。

 日本の商品は、世界一厳しく要求の多い消費者を満足させるため、品質は高
く繊細で、品数も圧倒的に豊富だからです。

 購買力平価は、日本特有の品質の評価が抜け落ちているために、日本が過小
に評価される可能性が高いように思われます。

 そういう意味では、「ビックマック指数」で比較する方が、たった一つの商品
で比較するという乱暴さはあるものの、ある意味で実態に近いような気もしま
す。(マクドナルドのサービスも、日本が一番きめ細かいと思いますが・・)

  「ビックマック指数」で比較すると、日本の物価は主要国のなかでは安い
方の部類に入り、円レートはユーロなどに対してなお過小評価されているとい
うことになります。

 一方、中国との比較では、日本のビックマックは3.5ドルに対して、中国は
1.83ドルで、物価の違いは若干縮まるものの大きな違いはありません。

 つまり、今の中国経済の実体的な規模が物価水準の違いを調整すれば、日本
の2倍近くというのが、やはり、妥当なレベル感なのかもしれません。

中国の不良債権化懸念

 先日、英FT紙は中国の金融機関が地方政府に融資している7.7兆元(約100
兆円)の融資の5分の1以上が深刻なデフォルト・リスクに直面しているとい
う、中国政府関係者の発言を報道しています。

 これが本当であるとすれば、ざっと20兆円以上の不良債権のリスクがあるこ
とになります。

 中国の地方政府が、無謀(または無意味)なプロジェクト開発に資金をつぎ
込んでいるという事に関する断片的な報道は、これまでもいろいろ見ましたが、
不良債権の全体像に関する数字は初めてです。

 懸念される融資のほとんどはインフラ投資に関わる融資です。

 2年前の金融危機発生後、中国政府は景気刺激策として、銀行融資を急激に増
やして、地方の公共事業を押し進めてきました。

 中央政府が、金をじゃんじゃん使えというお達しを出せば、ロクに計画も練
らずにそれを実施してしまうことは、ありそうな話です。

 今年に入ってからはそれらの融資の不良債権化が心配され始め、中国当局は
新規の融資拡大に急ブレーキをかけて来ました。

 懸念された事態が少しずつ表面化しはじめてきたわけです。格付け会社S&P
は中国の地方政府のプロジェクトの3割が、回収不能であると推定しているそ
うです。

 FT紙は、さらに懸念されることに、金融機関への取締強化の結果、不良債権
を規制の弱い会社に移して隠す動きがあることも指摘しています。

 中国の銀行といえば、90年代後半から5,6年前までにも恒常的な不良債権問
題が指摘され続けましたが、少なくともそれを表面的には処理をしてきました。

 とはいえ、バブル期の不良債権を日本の金融機関が処理した額が、総額100
兆円以上と言われていますから、今回の中国の不良債権問題は、まださほど心
配する必要はないという説もあります。

 巨額な不良債権が発生していることは、ほとんど疑う余地がないことですが、
それが中国経済全体、ひいては世界経済を大きく揺るがす事態にまで発展する
のかどうかは、なかなか判断が難しいところです。

中国の統計データの信ぴょう性

 5月に世界中の金融市場に激震を起こしたギリシャ・ショックは、昨年秋に欧
州連合がギリシャ政府の統計データを大幅に訂正しユーロ加盟以前から大幅な
「粉飾」が行われていたことを明らかにしたときから、危機への道のりがスタ
ートしました。

 そして、先日は、ハンガリーの首相報道官が社会党前政権時代に粉飾が行わ
れてきて「ハンガリーはギリシャの手前だ」と発言し、株式市場に大きな衝撃
を与えました。

 ハンガリー政府の粉飾問題の真相は分かりせんが、個人的にはこの国が粉飾
していても、全く驚きはありません。恐らく市場の反応もそういうことだった
のでしょう。

 さて、ギリシャやハンガリーはまだ小国ですが、これが今や世界経済をけん
引している中国の問題となるとだいぶインパクトが違います。

 先日の産経新聞(電子版)では少し気になる記事がありました。中国の地方
政府によるGDP統計の「水増し」疑惑に対して、当局が調査に乗り出すという
ものです。

 これは、中国の地方政府が算出するGDPを合算したものと、中央政府が別の
方式で集計したものに大きな乖離がある(地方の数字の方が大きい)という、
以前から指摘されてきた問題に対応するということのようです。

 実は中国の経済統計の信ぴょう性については、かねてから疑問の声が出続け
ています。
 確かにGDP統計一つを取り上げても、過去10年は危機などがあったにもかか
わらず10%プラスマイナス2%程度の安定した高成長を続けていて、「鉛筆を舐め
ているのではないか?」と勘繰りたくなります。

 中国統計の信ぴょう性の問題の厄介なところは、それが必ずしも「水増し」
とは限らず、「過小評価」している可能性もあるところです。これはギリシャや
ハンガリーのケースとは大違いです。

 さらに、問題を複雑にしているのは、中国の経済統計の基本的なデータの集
計手法に大きな問題あり、信ぴょう性のなさが意図的なのか、それとも単なる
偶然なのかの判断が極めて難しいことです。

 基礎的な手法の問題とは、例えば統計の「新方式」「旧方式」の混在や、一部
の産業のデータが粗すぎる、または全く欠如しているといったことのようです。

 このような事情に、おそらく「鉛筆舐め」も加わって、中国のGDPは、貿易
活動やエネルギー消費量といった側面から推計した経済活動全体の大きさと不
整合があるといった指摘がされ続けているのです。

 今の中国政府がそうするとはとても思えないのですが、ある日突然「大幅粉
飾していました」などと白状するような事態だけは避けてほしいものです。

中国の労働市場の変貌?

 iPadは大変な話題と人気のようですが、その日本での販売開始にタイミング
を合わせるかのように、中国のアップル社製品などを受託製造する工場で過酷
な環境に置かれている労働者の状況が明らかにされつつあります。

 問題の工場は深セン市にある富士康集団(Foxconn)という会社の世界最大級
の電子機器工場で、今年に入り13人もの自殺者を出していることが大きな問題
になっているのです。

 これに対して富士康集団は賃金の2割引き上げを発表し、アップルも加工費
の値上げを検討しているそうです。

 さらに広東省にあるホンダの工場では労働者たちが待遇の改善を求めてスト
ライキを行ったことで、先日まで組立工場の稼働が一時停止していました。

 このような事態が何を意味するのかは、なかなか奥が深い問題なのかもしれ
ません。

 中国では「女工哀史」のような労働者酷使が行われてきたことは公然の事実
でしょうか、そのような影の部分がこれまでの奇跡のような高成長を支えて来
たわけです。

 最近の出来事は、このような問題を封印したまま中国が成長を続けることが
出来ないというステージにまで来た事を示唆しているのかもしれません。
 
  状況が変化したのは、労働者が不足し始めているという側面もあるし、
 また一人っ子政策などによって、若い労働者の意識や考え方の変化というこ
ともあるようです。

 ホンダはストをした労働者に24%の賃金引き上げを提案したと報じられてい
ます。

 こういった動きは一旦どこかで火が付くとあっという間に中国中に燃え広が
る可能性があります。

 これまでは、中国政府も外資の企業にも中国の豊富な低賃金労働者の存在を
享受してきたわけで、ずっと値下がりが続いてきたモノの価格もその結果の一
つでした。

 最近の中国で起こっている事態は、そういった構造に大きな変化が起こって
いることを意味するのでしょうか?

中国に10流の「赤旗」

 先週の「世界潮流」では、「バブルの歴史」の著者であるエドワード・チャン
セラー氏がまとめた中国がバブルであることに対する10の警告(Red flag)
の話題を取り上げています。

 中国経済の先行きに対する見方は、このメルマガでも何度か取り上げていま
すが、人によって見方が大きく分かれるところです。

 チャンセラー氏の見解はCMOの「白書」という形で発表されたものですが、
バブルの古典的な10の特徴と、現在の中国の10の特徴をそれぞれ示して、中
国経済のバブルの兆候を指摘しています。
 
 中国バブル論は数多くありますが、これは過去のバブル研究の第一人者によ
る、現在の中国バブル論の簡潔ながら集大成とも言える興味深い内容です。
 
 せっかくなので、古典的なバブル部分は省略しますが、中国に関するものを
簡単に要約して説明します。

① チェイナ・ドリーム:中国の人口は2015年には減少を始める。労働参加率
は今年がピークで今後は安い労働者の新規参入は限られたものになる。
② 中国共産党への信頼感:現在の中国共産党に対する過剰な信頼感は、かつて
日本の政治が西洋より優れているという見解があったのと類似している可
能性。歴史的には中央集権経済が最適とは言い難い。
③ 投資ブーム:昨年の中国の投資は30%増加して、昨年のGDP成長の9割を占
めている。中国は今の発展水準にしては大きなインフラを既に保有している。
④ 腐敗:投機ブームには常に腐敗が伴うものである。中国には「地方分権化し
た略奪」のシステムがあると言われ、地方のインフラや不動産投資に関連し
た腐敗は、中国の成長の質を落としている。
⑤ イージー・マネー:金利はGDPの成長率との対比で低い水準が続いており、
昨年のマネーサプライの増加は30%を超えた。
⑥ 固定相場制:割安なレベルで固定された為替レートは、輸出の拡大、金利の
押し下げ、海外からの投資呼び込みの効果がある。今の中国と同じような規
模の外貨準備を積み上げた例は、1929年の米国と、1989年の日本だけであ
る。
⑦ クレジット・ブーム:昨年政府は銀行融資の拡大を進めて、融資は10兆元、
GDPの30%あまりも増加した。
⑧ モラル・ハザード:中国の主要銀行は政府によってコントロールされ、過去
に沢山の焦げ付きを作ってきた。S&Pの推計では、中国の融資の約半分が問
題融資との推計もある。
⑨ 危険な融資慣行:2007年の欧米の信用危機のように、資産価格の上昇を前提
にした融資慣行は資産価格の下落とともに崩壊する。中国の地方政府が行っ
ているインフラ投資は、ほとんどキャッシュ・フローを生んでいない。
⑩ バブル:昨年の7月下旬のある日の上海A株取引額は、東京、ロンドン、NY
の取引上の取引額を全部足したものを上回った。不動産市場のバブルぶりに
ついては既に多くの報告がなされている。

 さて、ご覧になっていかがでしょうか。それぞれの項目については、いろい
ろ意見もあろうかと思いますが、ポイントが良く整理されていることは間違い
ないのだと思います。

 個人的には政治の信頼感に最も注目していますが、人口問題も興味深い指摘
ですね。

 とりあえず短期的には中国バブルは崩壊しそうもないのですが、中長期的に
は、チャンセラー氏が示してくれたポイントを注意して見ていた方が良さそう
ですね。

中国の購買力の負けたリオ・ティント

 昨年7月に、オーストラリアのアデレードに本拠を持つ資源大手のリオ・テ
ィントの上海の事務所の社員4人が産業スパイの容疑で逮捕された時には、豪
州と中国の関係は大変に険悪な雰囲気が漂っていたように見えました。

 その事件に対する非公開裁判の判決が先日出て、4人の被告には7年から14
年の懲役や財産没収の刑を受けるになりました。
 
 しかし、リオ・ティントや豪州政府は8カ月前の怒りをすっかり忘れて、あ
たかも大した事件ではなかったように振る舞い、中国とのビジネスを「良好に」
続けていきたいと考えているようです。

 昨年の社員逮捕は、中国のアルミ大手チャイナルコからの出資話をリオが一
方的にボツにしたり、鉄鉱石価格の大幅引き下げを求める中国の価格交渉戦術
が失敗した直後の時期であったので、4人の逮捕には中国政府による政治的な意
図が大いに疑われました。

 「中国は何をやらかすか分からない!」というのが当時の豪州世論で、両国
関係は一気に悪化し、その結果中国から豪州への旅行者も激減しました。

 ところがそれから8カ月たった今、リオ・ティントの鉄鉱石の大部分を購入
しているのが中国であるという事実が、豪州国民の怒りを鎮めさせたようです。

 先日リオの幹部は、昨年の鉄鉱石販売の7割が中国向けであったことを白状
しました。

 そんなこともあって、リオの幹部は中国との関係はいつのまにか「順調」と
いう認識に変わってしまったようです。

 気の毒なのは、逮捕された社員です。リオは4人を解雇しました。

 4人は賄賂を受け取った事実を認めているのですが、そういうことは特に珍し
いことではないようですし、もしかすると、賄賂は中国が鉄鉱石の価格交渉を
有利にするために渡したものかも知れませんから。

 もともと資源大手リオ・ティントのビジネスのやり方もあまり褒められたも
のではなく、資源価格を釣り上げるためには何でもやりかねないところはあり
ます。

 そういう意味では、今回は4人の社員を見殺しにして、中国との関係維持を
図ったというところは、特に驚くにはあたらないかもしれません。

 今回の一件は、外野からの眺めはあまりよいものではありませんし、何か釈
然としない話になりました。

ドイツ経済の成功と苦悩

 ギリシャやポルトガルの財政問題は、それらの問題諸国とは対極にあるドイ
ツ経済の強さを浮き彫りにさせる結果になりました。

 ドイツの経済と言えば、1990年の東西統合後に起因する混乱以来、失業率は
高止まりして、一時は「ベルリンの壁復活を願う」などといった声が聞かれた
時代もありました。

 そんな状況がつい5年ほど前まで続いていて、ドイツ経済の70年代のような
存在感は、もはや永続的に失われたかのようにも見えました。

 しかし今般の危機は、結果的にドイツ経済の底力を見せつける機会になりま
した。ドイツでは危機後も失業率はほとんど増加せず、財政も悪化したとはい
え米英やPIIGS諸国などと比べれば遥かに健全な水準を保っています。
 
 そのドイツ経済を支えているのが貿易で、昨年12月には長年保っていた輸出
額世界一の座を中国に譲ったものの、輸出額はまだ日本の2倍近い規模です。

 ドイツの輸出依存度(GDPに対する輸出額の比率)は40%近い水準でこれは日
本の輸出比率16%の3倍以上です。

 最近の英エコノミスト誌の記事では、危機後にドイツ産業界が示した驚異的
な柔軟性と競争力の理由を2つあげ、一つは過去10年間の規制緩和に伴う厳し
い労働コストカット、もうひとつは通貨統合の恩恵であると言います。

  近隣諸国は、ドイツの輸出競争力に対抗するユーロ導入前には可能だった
「通貨切り下げ」という手段が出来なくなったからです。

 確かにドイツの貿易の中身をよく見ると、その相手はユーロ圏内の貿易が約
半分であることが分かります。輸出相手のシェアをみると1位がオランダで約
9%、2位がフランス、3位にようやく中国が入り、5位はイタリアです。

 危機後の急速な円高に苦しんだ日本に比べれば、通貨ユーロは大きなメリッ
トになったことは間違いなさそうです。

 英FT紙はドイツの構造的な経常黒字体質は、一部近隣諸国の恒常的な経常赤
字体質と表裏一体であると指摘しています。
 
 仮にドイツがPIIGS諸国にドイツのような黒字体質になれと求める一方で自
身の黒字体質を維持するとすれば、さらにどこか別の近隣に経常赤字を引き受
けてくれる先を見つけなければならず、そのやり方は矛盾があるというのです。

 またFT紙の別の記事では、中国とドイツという2大輸出大国をもじった「チ
ャーマニー(Chermany)」という造語を紹介して、この二つの国が多くの相違点
があるものの、いくつかの特徴を共有しているといいます。

 それは貿易黒字を出して、貿易相手国に対してはモノを買い続けるように求
める一方で、無責任な借り入れは止めるべきだと独善的に主張していることだ
そうです。

 同紙はチャーマニーがこのような矛盾した主張を続ければ、やがては世界を
「近隣窮乏化策」の戦いに巻き込むことになり、最終的には自らが大きな被害
を受けることになるだろうと指摘しています。

 まあこの意見には、貿易赤字国側の負け犬の遠吠え的な部分もありそうです
が、久しぶりに世界経済の優等生に戻ったドイツに新たな悩みが発生している
ことは間違いなさそうです。

 さて、最近のドイツ経済の成功、特に製造業の競争力を維持する姿は今後の
日本経済の一つの見本になるようにも見えますが、別の意味の教訓も与えてく
れているのかも知れません。

中国の最低賃金引き上げ

 米国型資本主義の欠陥が次々に明らかになる一方で、中国型の権威主義的経
済が何故かうまく機能しているように見える昨今ですが、先日の英エコノミス
ト誌に中国型の銀行経営について、興味深い記事がありました。

 中国の銀行や保険会社は、いまや株価時価総額で世界のトップを独占するよ
うな規模になっているにもかかわらず、それらの金融機関のいったい誰が政策
決定をしているのかほとんど分からないようです。

 そればかりか、それを詮索するだけでも安全保証に関する法律に抵触する可
能性もある、非常にデリケートな問題であるといいます。

 強大な銀行のトップといえども、欧米の経営者のような自由は持ち合わせて
おらず、その人事は国の命令ひとつでローテーションされるような状況なので
す。

 中国の金融機関では、たとえ形式上は民間企業であっても、その経営会議に
は規律を守らせる役割の担当者が当局から派遣され、共産党の立場を代弁して
いるそうです。
 
 このような統治形態であるので、いかなる大口の貸し出しについても、ひと
つの銀行や一人の経営者によって決められるわけではないといいます。
 
 その結果、最近の例では、中国では、中央の命令によって預金準備率が先月
から2回続けて引き上げられ、さらに銀行は融資の引き締めに動きだしました。

 このような金融政策の実行は、中国指導部のなかで現在は政治局委員を務め
る王岐山氏がキーマンであると見られています。しかし、実際には為替レート
や大型の財政政策の判断など重要な金融経済政策については胡錦濤国家主席を
含む9人の共産党中央政治局常務委員たちが最終的な意思決定をすると考えら
れています。

 エコノミスト誌は、このような複雑な統治体制であることによって、まだ先
のことではありますが、いずれ中国当局が銀行貸し出しのリスクについての対
応が出来なくなる可能性があるのではという懸念をしています。
 
 さて話は変わりますが、最近中国の広東省や江蘇省、それに上海市や北京市
などでは、一年ほどまえの労働者削減の動きとは打って変わり、景気回復によ
る労働者不足の深刻化によって最低賃金引き上げの動きが相次いでいるようで
す。

 物価の動きでモニターする限りは、まだまだインフレ懸念が顕在化する状況
ではないのですが、昨年の中国の当局主導による津波のような金融緩和があっ
たことを考えれば、物価上昇のリスクも、いつまでも安心している状況ではな
くなってきているかも知れません。

 「世界潮流」2月12日号では、以上のような状況を紹介して、今後中国指導
部がインフレのリスクを懸念して更なる融資絞込みに動くタイミングが、意外
に早い時期に来るかもしれないと指摘しています。

 いずれにしても、現在の中国の金融経済政策の意思決定・執行体制が長期的
な視点で優れたものであるのかどうか、もう少し時間をかけて判断する必要が
ありそうです。
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