グローバルな金融経済の動向を、ユニークな視点を交えてお伝えいたします。

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FRBの歴史(その2)「ジェファーソン対ハミルトン」

 前回、第一合衆国銀行と第二合衆国銀行について説明しましたが、当時のアメリカでは銀行の設立を巡って、第三代大統領トーマス・ジェファーソンと初代財務長官のアレクサンダー・ハミルトンという2人の建国時の巨頭の間に大きな対立軸がありました。

 この関係は、アメリカという国の金融を考える上で極めて重要であります。先週ご紹介した「国家対巨大銀行」(ダイヤモンド社)にこの対立の様子が要領よくまとめられているので、今回はそこからこの対立軸について簡単にご説明いたします。

 ジェファーソンは現在でも非常に尊敬されている人物ですが、彼が思い描いていたのは地方分権化された農業社会で、経済についは良く知っていたとは言い難かったようでした。

 一方のハミルトンは、連邦政府の権限を強化して、経済発展を進めるべきだとして、ジェファーソンの大嫌いな近代的な金融制度の導入を推し進めました。ハミルトンの合衆国銀行のプランは、イングランド銀行をモデルに連邦政府の資金の管理や、連邦政府への貸付、経済全体への信用供給を行うものでした。(注:政府への貸付という点に注目して下さい)

 ハミルトンの第一合衆国銀行の設立案は、ジェファーソンが猛反対をしてワシントン大統領もそれに一度は同調しかかったのですが、最後にハミルトンの反論によって覆り、設立が実現したそうです。第一合衆国銀行は概ねハミルトンが説明した通りの役割を果たしましたが、ジェファーソンの懸念はそういった次元のことではなく、合衆国銀行が連邦政府の主たる債権者兼決済代理人として強い影響力を発揮することや、産業界の勝者・敗者を裁量的に選別するのではないかといったところにありました。

 ジェファーソンの懸念を共有し、巨大な都市銀行に不信感の懸念を持ったのは「オールド・ヒッコリー(古い胡桃の木)」との愛称をつけられた、頑固で頑健なアンドリュー・ジャクソン第7代大統領です。ジャクソンは貴族階級出身でない最初の大統領でもあります。

 ジャクソン大統領は、金や銀の裏付けのない不換紙幣と言うものが大嫌いで、第二合衆国銀行の免許更新に敢然と拒否権を発動しました。ジェファーソンもジャクソンも、強い力を持つ銀行を、民間政府の円滑な機能を妨げかねない腐敗した存在とみなしていたそうです。

 「国家対巨大銀行」の著者達は、このジャクソン大統領の勝利が19世紀のアメリカの発展に与えた影響は極めて大きかったと言っています。

 ジャクソン大統領が第二合衆国銀行を葬った結果、アメリカはヨーロッパに比べて正規の中央銀行の発達が遅れてしまったけれど、そうした不利はあってもアメリカ経済は19世紀を通じて進歩し、発展を続けました。

 そして、アメリカが同時期のメキシコやブラジルなどと同じ運命を辿る事を免れたのは、強大な民間銀行が政治権力の中枢に居座って、少数のエリートが寡占化した銀行部門を掌握して、経済に不幸をもたらす事がなかったからだと言っています。

 FRBが設立されるのは1913年のことですが、その後世界とアメリカは第一次大戦、世界恐慌、第二次大戦という歴史の渦の中に巻き込まれて行きます。そして、FRBは両大戦の戦費調達に非常に重要な役回りを演じています。

 アメリカにとって、中央銀行の存在が、幸福をもたらすものかそれとも逆なのか、まだまだ結論は出ていないのかも知れません。
FRBの歴史(その1)
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トリシェ総裁対バーナンキ議長

大量の国債購入を続けるFRBとは対照的にECB(欧州中銀)のトリシェ総裁はインフレ懸念を口にし始めています。今週はじめトリシェ総裁は、ユーロ圏のインフレ予想をするに当たっては「現在のように商品価格がインフレの脅威となる状況では、各国中銀は二次的な影響が生じないようにする必要がある」と発言しました。トリシェ総裁は今月の半ばにも同様な懸念を示しているので、よほど気になっているのでしょう。

バーナンキ議長と、トリシェ総裁の違いを考えるとき、「市場感覚」の違いをいつも感じます。

マーケットの動きは、たとえ長い間ある大きなトレンドをもって動いていたとしても、いつの間にかそのトレンドがひっくり返っていることがしばしばあります。トレーダーや投資家は、このトレンドの転換点を見極めるのが非常に大事であるのですが、この転換を感じ取ることは容易なことでありません。

トレーダーのタイプにもいくつかあって、鋭い感性重視で、それまで「ロング」と言い続けていたにもかかわらず、ある日突然、言葉にできる明確な理由もないのに「ショート」と言い出すタイプです。もうひとつのタイプは理論派のトレーダーで、感性より理屈重視です。

さて、トリシェ総裁とバーナンキ議長をトレーダーに例えた場合、トリシェ総裁が感性派かどうかは多少議論の分かれるところでしょうが、バーナンキ議長が理屈重視であることは間違いないでしょう。

バーナンキ議長は、2008年にリーマン・ショックが起るまでに、「サブプライム問題の影響は限定的」と言い続けていました。サブプライム・ローン市場は米国経済を揺るがすほど規模の大きな市場でないというのがその「理論」で、確かにその理屈には一理あったのですが、実際はその理論には大きな落とし穴がありました。

一方のトリシェ総裁率いるECBは、リーマン・ショック以前にもインフレを懸念し過ぎるというフライングがありましたが、金融システムの脆弱性に気付き金融機関のファイナンスをサポートすることでは、バーナンキ議長に先んじて思い切った手段を講じています。

もし両者のどちらかに資産を預けて運用してもらわなければならないとすれば、個人的にはバーナンキ議長には預けたくないかもしれません。

感性重視のトレーダーはしばしば小さな誤りを犯すかも知れませんが、感性が鋭ければ間違いにすぐに気が付きます。一方理論派で頭でっかちなトレーダーは、間違いに気がついた場合にはすでに手遅れで巨額な損失を出してしまうこともあるからです。

中央銀行総裁の仕事と、トレーダーの仕事を混同するなとお叱りの声が出るかも知れませんが、バーナンキ議長やトリシェ総裁は地球経済の最も影響力のある運用者であるといえるかもしれません。

最近のトリシェ総裁の発言を見て、こんな風に感じました。

FRBの歴史(その1)第一・第二合衆国銀行

 最近は世界的に食料品や資源価格の上昇傾向によってインフレの芽が少しずつ育ちつつあるようにもみえます。一方でバーナンキ議長が率いるFRBは「禁断の政策」とも呼ばれる米国債の購入策を今も毎月続けていて、ドル紙幣の価値の下落策にまい進しています。

 このようなFRBの政策の位置づけを理解するにあたって、FRBの歴史を振り返ってみるのも、一つの方法ではないかと思います。そこで、今回から、断続的にではありますが、FRBの歴史についてシリーズにしようかと思います。

<FRBの歴史:アメリカ建国から、第一・第二合衆国銀行まで>

 FRBの設立は1913年です。これは1694年イングランド銀行より遙かに遅れただけでなく、1882年の日本銀行設立より30年以上も遅いのです。どうして設立がこのように遅れたのかという疑問は、現在のFRB制度の不可解さを理解するにあたって意外に重要なポイントなのかもしれません。

 実はFRBは米国において中央銀行(のようなもの)を設立しようとする3度目の試みでようやく出来た組織です。最初の中央銀行設立の試みである、第一合衆国銀行(The First Bank of the United States)は米国が独立して10数年後の1791年に米国建国の父の一人アレクサンダー・ハミルトン財務長官によって設立されました。
 
当時米国では13の諸州の州立銀行やその他の銀行などが発行する通貨が多数流通していて、それぞれの価値は極めて不安定という混乱した状況でした。もともと1787年に制定された合衆国憲法では通貨発行権は議会に属すると定められていたのですが、ハミルトンは憲法を拡大解釈しこのような状況を打開するために合衆国銀行を設立したのです。

ただこの第一合衆国銀行は、各州の自治権意識の高さから、もともと20年という期限を付けるという条件で創設されたものでした。そして銀行設立後も、13の諸州の利害はなかなか一致せず、特に南部諸州の反発もあって20年後に失効してしまいます。

皮肉なことに、第一合衆国銀行失効直後の1812年に勃発した米英戦争の結果、激しいインフレが起こります。インフレによって再び通貨価値の安定の必要性が高まり、第一合衆国銀行失効のわずか5年後の1816年に第二合衆国銀行が設立されました。ただ、これもやはり20年という期限付きでありました。

第二合衆国銀行はインフレ抑制のため引き締め政策をとりました。金融引き締めはいつの時代でも不人気な策で、この政策は企業からの強い反発を受けました。さらに、各州の州立銀行との政治的な対立にも巻き込まれた上、アンドリュー・ジャクソン大統領の支持も失ってしまい、結局第一銀行同様に20年後に失効・消滅の憂き目を見ることになりました。

通貨のコントロールという行為は、その権力を持つ一部の人々に大変な利益をもたらします。そもそもアメリカの東部と中西部では政治・経済的利害が大きく異なります。そのような状況では各州はこの強大な権限を中央に渡したくなかったのでしょう。米国では各州の利害を調整することが難しいことは、今でも忘れてはいけない重要な特性です。

(続く)

FRBに対する歴史の逆風

今月初めにバーナンキ議長が決行したQE2(量的緩和第二弾)は、BRICs諸国
のみならず、米国内からも大きな批判を浴び、批判の声はさらに世界中に拡大
する様相を見せています。

 また、それとは別のところでもFRBにとって歴史的な事態が起ころうとして
います。長年FRBを攻撃し続けて来た、いわばFRBの天敵とも言える、テキサ
ス州選出のロン・ポール下院議員が、先般の中間選挙で共和党が圧勝したこと
によって下院の銀行委員会の小委員会委員長に就任する観測が高まってきて
いるのです。

 ポール議員は、FRBは1913年に設立されて以来、ドルの価値を暴落させて、
米国庶民の利益を破壊して来たと、長年繰り返しアピールし続けています。

 FRBが設立されたことで、金など実物資産の裏付けをもたない、ペーパー・マ
ネーを印刷することが可能になり、マネーサプライを増加させ、インフレを引
き起こし、実質的に政府の借金を返済してきたというのがその主張の趣旨です。
 
 米国が70年代のニクソン・ショックで金本位制からの完全な脱却を強いられ
たのも、FRBがドル紙幣を刷り過ぎたためであるというのです。

 ポール議員の主張は一見かなりエキセントリックに見えることもありますが、
一方で、非常に鋭く本質を突いている部分があります。

 英FT紙は、先日のQE2政策発表の後、バーナンキ議長をはじめとするFRBの
高官達は、100年前にFRB設立の密談が行われたジョージア州のジキル島を訪れ
るという「最も奇妙で、最も秘密に満ちた米国金融史の探訪」(strangest, most
secret expedition in the history of American finance)に出かけたと報道
しています。

 詳しい説明は省きますが、FRB設立の青写真は100年前にジキル島に「カモ猟」
を装って集まった一握りの大富豪の銀行資本家と政治家が秘密裏にまとめあげ
たものなのです。

 第二次世界大戦前の世界は、いろいろな意味で、現在とは道徳観が全く異な
る状況だったのでしょう。FRBも決して米国民全体の為の銀行というものではな
く、一部の特権的な銀行家達の利益を代弁する機関として始まったとしても、
全く不思議はありません。

 ただし、問題なのは、そのような体質が21世紀の現在まで、水面下では色濃
く残されている可能性があることです。リーマン・ショック後に行われたFRB
によるウォール街への「お手盛り」の救済策はFRB設立時の暗部を再び思い出
させるものでした。

 ジキル島での秘密に満ちた歴史については、長年多くを語られることはなか
ったのですが、リーマン・ショック以降は大分風向きが変わってきているよう
です。

 今回、バーナンキ議長達が、歴史的にも大胆で直接的なドル紙幣印刷策であ
るQE2を決定した直後に、ジキル島に100周年の祝いとして訪れるタイミング
になったことは、本人達も歴史の巡り合わせを強く意識したことでしょう。

 勝手な想像ですが、議長としてはFRBの聖地を訪れて「お祓い」をしたい気
持ちがあったのかもしれません。しかし、ロン・ポール議員が銀行委員長にな
ってFRBを監査する立場になるとすれば、逆に長年封印されてきた歴史を解い
てしまったことになるかも知れません。

 ポール議員のこれまでの主張を考えれば、バーンナンキ議長のQE2政策は、
ほとんど考えうる最悪の政策に見えるのでしょう。

 先週ポール議員は「FRBの秘密を暴く必要がある」とか「バーナンキ議長は最
悪の悪夢」(worst nightmare)といったコメントを発しています。

 ジキル島での密約から100年を迎えたFRBの新しい世紀は、大きな変革が迫
られる世紀になるのかも知れません。

量的緩和は何のため?

 来る11月2日、3日に行われる、米国の金融政策を決定する会議であるFOMC
でQE2と呼ばれる追加的な緩和措置が取られるどうかが注目されています。

 QE2とは、「Quantitative Easing 2」(量的緩和第2段)のことですが、英国
ではQE2というと普通はエリザベス女王(Queen Elizabeth 2)のことを指し、
劇場などあちこちで「QE2」のマークを見かけます。おそらく、この女王の略名
に引っ掛けて量的緩和に使われるようになったのでしょう。

 第2弾の政策がささやかれるということは、第1弾がどこかにあったことに
なります。それは、リーマン・ショック後の混乱がまだ冷めやらぬ昨年3月の
ことで、このときFRB(米国の中央銀行)は8500億ドルのモーゲージ債の追加
購入に加えて、初めて長期国債の買い入れ(3000億ドル)実施に踏み切りまし
た。あわせて1兆ドル以上の思い切った金額でした。

 来月に実施が見込まれるQE2では、長期国債の買い入れ額をさらに増額する
ことや、場合によってはインフレ・ターゲット的な政策が導入されるという見
方もあります。

 世界の中央銀行の動きとしては、追加政策の政治的プレシャーを受けた日銀
が先月発表した追加緩和策が、意表を突くほど思い切った内容となり、かなり
長期にわたって利上げを行わないことを明らかにしました。

 これまで日銀の無策でデフレを放置してきたと(暗に)バカにしてしたバー
ナンキ議長としては、自国がデフレ的な状況からなかなか脱却できず、雇用が
いつまでたっても改善しないという状況であることから、ここで何とかカッコ
いいところを見せなければならないというプレッシャーがあるのでしょう。
 
 しかし、日銀が実施した政策や、FRBがこれから行うかもしれない政策が、実
体経済にどれほど大きな影響を与えられるのかについては、かなりの疑問があ
ります。
 
 これらの政策は中長期の国債金利を引き下げるという効果は確実にあります
が、もともとかなり低い金利をさらにもう少し押し下げたところで、いったい
何の意味があるのか?という疑問です。

 少し前にバーナンキ議長がQE2を検討していることを示唆したことによって、
ドルの金利が下がってドル安となり、「通貨戦争」と呼ばれる事態が発生しまし
た。

 日銀の政策にしても、金利が下がればそれによって貸出金利は若干下がると
いうメリットはありますが、同時にわれわれの定期預金の金利は消滅し、国債
購入に運用を頼っている機関投資家は大変な運用難になるというデメリットも
あります。(前回の量的緩和の時も言われたことですが・・・)

 バーナンキ議長は、今年7月に、経済状況は「異例なほど不透明」と発言し
て話題になりました。この発言、見方を変えればFRBが現在の経済状況を把握
しかねていて、そのレーダーは曇っているということです。

 そのような視界不良の状況で、どれほどの効果があるのかわからない政策を、
とりあえずのパフォーマンスとして、一か八かでやってみようというのが、来
月実施されるかもしれないQE2の実態かもしれません。

 少しまえに、WSJ氏は、QE2を豪華客船クイーン・エリザベス2世号にひっか
けて、「酔っ払った船員たちが舵を取る豪華客船になりかねない」と書きました
が、これはなかなか的を得た表現かも知れません。

為替介入の意味

 民主党の代表選が近づくにつれて、両陣営は世間にアピールする為に、「為替
介入」の実施をちらつかせるようになってきました。

 為替介入を実施しなければ、何の策も取っていないと言わんばかりのマスコ
ミや一部の評論家の論調が影響しているのかも知れません。

 ただし、介入をしろという人々は、誰もその介入資金がどこから生まれてき
て、どこに行きつくのか全く説明せずに、為替を少々円安方向に動かすかもし
れないという期待しか語りません。

 それはあたかも、魔法のように円の資金が生まれて、その資金で購入したド
ルがどこかに消えてしまうように思っているふうにも見えます。
 
 しかし、為替介入というのは、いわば一種の劇薬であり、劇薬を使う場合は
それがどんな副作用があるのかを、円高という病気で病んでいる(と円安論者
が思っている)日本国民に、きちんと説明する必要があります。
 
 残念ながら、過去の自民党政権でも、一気に数十兆円という狂気の沙汰と思
えるような巨額の介入を行った時でさえ、副作用についての説明は一切行われ
てきませんでした。
 
 為替介入を行った場合には確実に起こる副作用が二つあります。一つは介入
の為の円資金を調達するために、国債の発行量が一段と増えることです。
 
 もうひとつは、介入の結果手に入れた米国債が、為替リスクと米国政府の破
綻リスクに対するエクポージャーを一段と増加させることです。
 現在、外貨準備高は約1兆ドル超ですが、これは例えば2003年度に32兆円
を超える介入が行われた結果の産物です、この年、政府は議会承認も受けずに
借金を勝手に32兆円も増やしたわけですが、介入当時の為替レートは110円を
少し割れた程度が中心だったので、この時の介入は、大変な含み損になってい
ます。
 
 円換算の外貨準備残高は、一時120兆円以上あったのが、現在は90兆円未満
です。
 
 これだけの損をして、借金と為替というリスクをいつまでも引きずったまま
まのですから、もっと別の有効なお金の使い方がなかったのという意見があっ
ても当然のことでしょう。
 
 為替介入が絶対ダメとまで言うつもりはありませんが、その副作用を説明し
ないで行うことは許されません。

ストレステスト

 先日EUが発表した、金融機関に対するストレステストの結果を、世界中の株
式市場は好感して、それまで下落していた分のいくらかを取り戻しました。

 株をやっている人々には良い材料として使われたものの、事情に通じた人々
の間での今回のストレステスト自体に対する評価は散々なものです。

 既に遥か以前から「ダメだし」されているいくつかの金融機関に対して、も
う一度資本不足の烙印を押し直しただけで、欧州の金融界が抱える隠れた問題
点を洗い出すという、ストレステスト本来の目的は全く達成されていないから
です。

 「ストレステスト」というのは、最近十数年ぐらいでよく使われるようにな
った、金融のリスク管理の用語です。

 本来は、不測の事態に備えて、さまざまな「ストレス・シナリオ」を用意し
て、それらのシナリオで想定する事態が現実に起こった場合のリスクに耐えら
れるかどうかの判断をするわけです。

 これまで金融界は、ブラックマンデー、アジア危機、リーマン・ショックな
どさまざまな、事前に予期出来なかった激しい動きに直面し、その度にいくつ
かの金融機関の経営が危機に陥りました。

 こういった反省があって、思いもかけない「不測」の事態に備えよう、という
のがストレステストという手法が生まれた背景です。

 しかし、よく考えてみると分かるのですが、「不測」の事態を「予測」してス
トレス・シナリオをつくることは、容易なことではありません。簡単に「予測」
出来てしまうようなシナリオでは、全く「不測」の事態ではないからです。

 本来は、イマジネーションを総動員して、これまで一度も起こっていない極
端な事態をあれこれ考えればよいのですが、空想力に乏しい金融界の人々はこ
れが苦手のようです。

 そういう事情で、「ストレステスト」と称して、「不測」のシナリオを適用す
るのでなく、実際に過去に起こった極端な市場の動きなどをもとに「ストレス・
シナリオ」を、適当にでっちあげるというのが一般的なやり方となりました。

 さらには、シナリオ想定が難しく、最後は「鉛筆を舐めて」エイヤで決める
しかないとすれば、それを逆手にとって、初めに結論があるような都合のよい
シナリオを作ることも可能です。

 昨年米国で実施されたストレステストも、今回の欧州のストレステストも、
本気で「不測の事態」に対する耐久性をテストしようとしたわけでなく、形だ
けテストを行ったという雰囲気が濃厚なので、一部の人々からの評価が散々な
のです。

 こういった空虚なストレステストを繰り返すとすれば、「ストレステスト」と
いう言葉自体の賞味期限切れを招くことになりそうな気がしてなりません。

米金融改革法案が上院通過

 この週末、米金融改革法案が上院を通過しました。

 昨年12月には下院で別の改革案が通過しており、あとは上院と下院の協議で
内容を調整し、それが上手くいけばオバマ大統領のサインというステップにな
ります。

 実際に大統領のサインがされるまでは、まだどうなるか不確定なのですが、
この法案は、デリバティブ取引を従来の相対取引から清算機関や取引所を経由
させることや、プロップ取引(自己勘定取引)の制限、また「大きすぎて潰せ
ない」問題への対処などさまざまな項目を含みます。

 プロップ取引の制限がボルカー・ルールと呼ばれるものです。

 いろいろな規制を盛り込んでいるのですが、誤解を恐れずに一番大事なコン
セプトを一言でいうと、「銀行は本業に帰れ」ということでしょう。

 本業とは経済の血液として、産業界(メイン・ストリート)に資金を循環さ
せることです。

 その機能の必要性については、ほとんど誰も異議を唱えないでしょう。

 しかし、リーマン・ショック後に欧米の多くの巨大銀行が連鎖倒産直前まで
行ったのは、クレジット・デリバティブなどを使って、伝統的な銀行業とはか
け離れた形で大きなリスクを取り、レバレッジを大きく拡大させていたからで
す。

 さらに悪いことに、デリバティブ取引はテーラー・メード的な商品が簡単に
作れる一方で、複雑化し、ポジションの透明性が著しく低下します。

 デリバティブを使えば、脱法商品でさえ簡単に作れてしまうのです。

 その結果、大手金融機関のトップでさえ、自分の会社がどのようなリスクを
取っているか、十分には把握出来ない状態なのです。

 トップが理解できない理由の半分は、トップの能力の問題ですが、残りの半
分はポジションが複雑すぎることにあります。

 そういった問題に対処する為に、金融改革法案ではデリバティブ取引につい
て、シンプルで透明性の高い取引所経由の定型化した取引に押し込めるなどし
て、本業以外のリスク・テイクを抑制しようとしているのです。

 こうして見ると、米国の金融改革は大きく前進したように見えますが、まだ
まだ油断してはいけません。

 金融改革法案は上院、下院のどちらも1000ページを超える膨大な分量であり、
この中に法案の表向きの主張を骨抜きにするような条項が入っているかどうか
は、簡単には判断が難しいからです。

 過去数十年の金融に関する規制は、BISの規制も含めて、ほとんど骨抜きであ
ったか、ひどい場合には逆に別のリスクを拡大させました。

 これだけ、膨大な法案であれば、その隅々まで理解する専門能力と忍耐力を
議員に期待することは難しいでしょう。

 ということで、今回米議会は表明的には画期的な仕事をしたように見えて、
それ自体は歓迎すべきことですが、その仕事の真価を評価をするにはこの先何
年も必要になりそうです。

スティグリッツ教授のFRB制度批判

 米国の中央銀行制度、特にNY地区連銀が非常におかしな機関であることは何
度もこのメルマガで取り上げてきましたが、とうとう大御所のスティグリッツ
教授まで、この「堕落」した制度を激しく非難しています。

 この記事、実は櫻井は見落としていたのですが、友人が教えてくれました。
ありがとうございます。

 スティグリッツ教授はNYでの会議の席上でこの発言をしたそうです。下手な
訳なのですが、まずは教授の怒り心頭ぶりを聞いてください。

 もしこの国の連法準備制度に関する制度を見たならば、大きな声でわめき叫
びながらこう言わざるを得ないだろう「これは堕落(corrupt)した統治システ
ムであり、この国は支援するに値しない国だ」と。

 われわれは自分たちの制度を反省(reflect on)しなければならない時期に
来ている。言うまでもなく、それは改善できることだ・

 教授が怒り叫びたくなった原因は、NY地区連銀の「利益背反」ぶりです。ウ
ォール街が選んだNY連銀の理事たちが税金を使ってお手盛りでウォール街救済
をしたことです。

 この事実に関しては、特にAIGのCDS関連の事実関係を調べた人間はまず間
違いなく「あいた口が塞がらない」状況になるはずです。スティグリッツ教授
もその仲間入りをしたということでしょう。

 FRBは長い間、政策金利を決めることが主な仕事であると認識されていたので、
この制度上の大欠陥が長い間見過ごされてきたのでしょう。しかし、危機によ
ってこの欠陥に対する認識が急速に広まっているわけです。スティグリッツ教
授の発言は、もはやその流れが当局が押さえきれない次元に来ていることを示
唆しているように思えます。

 こうなるとFRBの制度改革はもはや時間の問題と考えてよいでしょう。この
ままの制度では次に危機が起きた場合は機能不全となるだけですから。

疑惑のNY連銀に対する報道

 本メルマガの読者の方であればよくご存知のことと思いますが、大メディア
の報道する情報が、意図的にコントロールされていて、しばしば戦時中の「大
本営発表」を笑えないような状況が起こっています。

 それは日本に限らず、最近はあまり聞きませんがかつて「自由の国」を代名
詞にしていた米国でも同じことです。

 その米国の中央銀行にあたるFRBが非常に奇妙な歴史を持ち、制度自体が「米
国の中央銀行」というよりは、「ウォール街の中央銀行」に近い存在であること
は、しばしばこのメルマガでも取り上げてきました。

 この話題は欧米の大メディアでは長年「タブー」の一つだったようで、この
件に関する報道はほとんど見かけることはありませんでした。

 しかし、今回の経済危機に関連したFRBのあまりのデタラメさから最近はや
や状況は変化してきたらしく、先日ブルームバーグのコラムニストDavid Reilly
氏は“Secret Banking Cabal Emerges From AIG Shadows”というやや刺激的な
題名のコラムを書きました。

 「AIGの闇から浮かび上がる秘密の銀行陰謀団」とでも訳せばよいのでしょう
か。(残念ながら、このコラムはまだ日本語には訳されていないようです)

 このコラムは、2008年11月に当時ガイトナー氏が総裁を務めていたNY地区
連銀がAIG救済に際してAIGのクレデリ取引相手であるゴールドマンなどの金
融機関に対して破格の条件で取引の清算を行い、3兆円近い税金を支払った疑惑
に関して先日米下院で開かれた公聴会について扱ったものです。
 どうでもよいことですが、この重要な公聴会に関しては、日本のメディアか
らはほとんど報道の痕跡がなく、海外のメディアでも報道を控えているところ
も多いようです。

 さて、ブルームバーグの記事に戻りますと、Reilly氏は次のような一文で書
き始めています。「秘密の銀行陰謀団がこの国や世界経済をコントロールしてい
るという話は、銃弾や水のボトルやピーナッツ・バターなんかを蓄え込んでい
る陰謀論者の連中の間の考えと思っていたが、先週のAIG救済に関する下院公
聴会の後では、本当に陰謀論者の連中がクレージーなのかどうか疑問に思わざ
るを得なくなった」と。

 FRBはこのクレデリの清算金の支払いを「極秘」扱いしてきたのですが、一連
の意思決定に関して問われると、ガイトナー長官も当時のポールソン財務長官
も、バーナンキFRB議長も揃いもそろって、「自分は関係ない」と言い張ってい
ます。大したものです。

 このクレデリに関する支払いを決めたのはNY連銀なのですが、NY連銀は12
ある地区連銀のなかで、金融政策の実行という機能を担っていて突出した権限
があります。

 ところが、強大な権限をもつNY連銀の人事は、FRBが総裁の「承認」を行う
権限があるだけで、実際にはウォール街の金融機関が重要なポストを占め総裁
も選出しているのです。

 記事ではMarcy Kapturという女性の下院議員がこの点を皮肉ってガイトナー
長官に次のように発言したことが紹介されています。「人々は、NY連銀の総裁は
米国政府の為に働いていると考えているが、実際にはあなた(ガイトナー氏)
はあなたを選出した民間銀行の為に働いている」

 先日オバマ大統領は、民間銀行の在り方に関して大胆な改革案を示しました。
その実行に関しても大変なハードルがあるのでしょうが、その先には1913年以
来の米国の連邦準備制度に対するメスを入れる議論が起こるのは確実のように
思われます。

 どうやら我々は大変な変革の時代に突入したようです。

オバマ金融制度改革の波紋

 先週オバマ大統領が新たな金融規制法案という金融界にとって衝撃的な表明
を行ったことに関しては、予想通りさまざまな反応があるようです。

 もしオバマ氏のプランが実行されれば、大恐慌後の1933年に作られたグラス
=スティーガル法以来の大変革になるからです。

 英FT氏のワシントン在住コラムニストCrook氏は、直前に米国で最もリベラ
ルな州で行われた故エドワード・ケネディ氏の後任選びの選挙での民主党の敗
北という、少し前までは予想もできなかった危機的な事態に直面して、オバマ
大統領は突然けんか好きになり「かかってこい(bring it on)」という態度で
金融機関叩きというポピュリズムに走ったと論じています。

 これは、大統領がスピーチの中で、これまで金融規制改革をしようという試
みに対して「ウォール街はロビイスト達を使って常識的なルールの設定を妨害
してきた。もしこうした人々が戦いを挑むなら、喜んで応じよう」と話した部
分を皮肉った説明であると思われます。

 英ガーディアン紙は、大統領から挑戦を挑まれたウォール街のロビイストた
ちは、「臨戦態勢を高めている(gear up to fight)」と報じています。何でも
米国の銀行上位8行は昨年は、前年より6%多い合計2600万ドル(約23億円)
ものロビー活動費を使ったそうです。ロビイスト達は今後、オバマ大統領の銀
行の規模縮小案は経済危機の原因に対する誤解の産物であると主張していくそ
うです。

 ところで肝心の21日のオバマ大統領が明らかにした改革案の内容ですが、ど
うもあまり正確に報道されていない節もあるので、大統領の演説を簡単に抜粋
して箇条書してみます。大統領のスピーチの原稿はWSJ紙などがネットに掲載
しています。さほど長くなく、なかなか説得力のあるものなので興味がある方
は一読されることをお勧めします。

・ 今回の経済危機の原因は、金融機関が短期的な利益や巨額のボーナスを追求
して起こったことを忘れてはならない。

・ 金融機関の救済は非常に不快(deeply offensive)であったがやらねばなら
なかったことである。

・ 金融システムは一年前に比べたらはるかに強固になっているにもかかわら
ず、いまだに危うく崩壊しかけた時のルールのままだ。

・ だからこそ、我々は消費者を守るための改革をして、米国の納税者が「大き
過ぎて潰せない銀行」の人質に捕られないようにしなければならない。

・ バーニー委員長の努力で下院を通過し、現在ドッド議員の手で上院を通過し
ようとしている金融改革法案の中心が大金融機関の取るリスクを制限する
ことである。

・ こうした努力の一環として、私は本日新たに2つの法案の追加を提案したい。

・ まず一つは、銀行が「顧客にサービスする」という本来の責務から大きく離
れて、金融上の特権を得ながらリスクの高い取引をするのを許さないことで
ある。

・ 銀行が巨大なリスクを取って、もし勝てば株主の利益、しかし負ければ納税
者の負担になるというルールは受け入れることができない。

・ そのために、私はシンプルで常識的な提案をしたい。それはわれわれがボル
カー・ルールと呼んでいるものである。

・ 金融機関が利益を求めてトレードすることは自由で、責任をもってそうする
ことは確かにマーケットにとっても良いことだが、税金の支援を受けながら
ヘッジファンドやプライベート・エクイティー・ファンドの運営をすること
は許されないということだ。

・ もうひとつ、私は金融システムの更なる統合を阻止する提案を行いたい。米
国民はほんの数社の巨大金融機関によって構成される金融システムに寄り
かかるべきでないということだ。

・ 金融界のリーダーたちに言いたいことは、このような改革に反対しないでほ
しいということなのだが、実際にはウォール街はロビイスト達を使って常識
的なルールの設定を妨害してきた。

・ もしこうした人々が戦いを挑むなら、喜んで応じる。改革に強く反対する人
たちを見ると私の決意はますます固くなるからだ。

 いかがでしょうか。オバマ大統領の演説は、なかなか説得力があるように思
えます。あとは、これを単なる言葉の遊びに終わらせないで、魂を入れられる
かでしょうが、この点に関してはオバマ大統領の実績はこれまであまり芳しく
なかったようです。
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