ジョージ・フリードマンに学ぶ地政学の今
オバマ大統領はアジア歴訪の日程を終えて帰国の途につきましたが、この
一週間は、世界が再び地政学の時代に戻ったことを、強く認識させられまし
た。
アジアの人々の関心は、東アジアや南シナ海の安全保障に関するオバマの
スタンスにありましたが、欧米のメディアは遠くアジアを歴訪中のアメリカ
の大統領がウクライナ問題にどう対応するのかが気になって仕方がない様子
でした。地政学的な緊張が高まれば、地球の裏側に近い場所での緊張より、
身近な地域での緊張への関心が高まるのが当然です。
事態の進展のスピードにばらつきがあるものの、欧州とアジアの両方の主
要国間で地政学的な緊張感が同時進行的に高まるのは、第二次大戦以降では
初めての事態ではないでしょうか。地球上の別の遠く離れた場所で一見バラ
バラに動いているように見える出来事が、実は緊密に連動してやがて大きな
うねりに成長して、しばしばその時代の人々を翻弄するようになるというの
が歴史の教えるところであり、しばらくの間は世界の出来事から目が離せな
くなりそうです。
このような地政学復活の時代に、大変に参考になる本があります。「影の
CIA」とも呼ばれるアメリカの民間情報機関を経営するジョージ・フリードマ
ンの「激動予測(The Next Decade)」(早川書房、2011年)です。日本では
同じ著者の「100年予測」の方が売れて有名ですが、現在の世界の地政学的
状況を包括的に理解するにはこの「激動予測」が最適です。100年予測がや
やSF的な空想も含めた「予測」の書であるのに対し、「The Next Decade」は
予測の書というよりは、むしろ「地政学の現状」の書であり、アメリカが現
在とるべき戦略を示した本であるからです。
たとえば、ウクライナの情勢については、ウクライナやベラルーシといっ
て国がロシアにとってどれだけ重要な地域であるか、そしてソ連崩壊以来の
アメリカによるロシア封じ込め戦略があり、ロシアはその巻き返しを狙って
いたことを考慮すれば、「ロシアの再浮上」のタイミングで現在のような脅威
が生まれるのは当然のこととして予見されています。
しかしながら、フリードマンの長期的な視点では、ロシアは人口問題など
のよって弱体化する運命にあり単独でアメリカを脅かすようなリスクはない
と見ているようです。そしてアメリカが心配しなければならないのは、現在
ウクライナで起きていることとは逆に、ロシアがドイツと接近していくこと
であり、それによって欧州のパワーバランスが崩れ、アメリカが欧州から切
り離されることだとしています。
一方、われわれに関心が高い日本と中国のパワーバランスの問題について
ですが、結論から言えば、フリードマンは、ロシアと同様に中国の長期的な
見通しについては懐疑的に見ているようです。これは、中国の経済成長は必
然的にやがて鈍化して、その結果人民解放軍の不満などさまざまな国内問題
に対応せざるを得ないという考え方に基づいています。
フリードマンがアメリカの本当の脅威になると考えているのは中国でなく
日本であり、日本はやがて「静かで控えめな姿をかなぐり捨てる」という考
え方をもっているようです。ただアメリカの脅威という形に至るのは10年や
20年といった時間軸ではなく、もっと先の話であり、アメリカはそれに備え
て日本と友好的なスタンスを保ち、一方で中国が分裂しないように万全の手
を打つ必要があるとしています。(ちなみに「100年予測」では2050年に日
本が再びアメリカに奇襲攻撃を仕掛けると予測しています。)
さてフリードマンがこの本を書いてから3年が経過している現時点におい
て、少なくとも表面的には中国のパワーがますます増大しているように見え
る一方で、中国国内のさまざま矛盾はその内部で着実に膨らみ続けているよ
うにも見えます。そうした状況下、中国は対外的には好戦的な姿勢を見せ続
けるために、日本を始めとする周辺国は偶発的なリスクとその延長上にある
より大きなリスクが高まったと捉えて、必然的にそうしたリスクに備えるた
めの準備を進めます。
一方でオバマ大統領をリーダーとするアメリカが、リップサービスはとも
かくとして、本気で日本や他の同盟国の利益を守るかどうか疑がわしく思わ
れる状況であれば、日本が戦後70年間続けていた受動的な姿勢からの変貌を
始めるのはある意味で自然の流れのような気がします。そういう意味では、
安倍首相は時代の流れの追い風に恵まれた政治家なのかもしれません。
この先のアジアや欧州の歴史がフリードマンの描いたシナリオ通りに進ん
でいくかどうかは分かりませんが、個人的には、現時点では少なくともひと
つの有力なシナリオのひとつであり、常に頭の片隅において置く価値があり
そうに思われます。ただし、日本がアメリカにもう一度力で挑戦するところ
まで行き着くのは勘弁してほしいものですが・・・。
一週間は、世界が再び地政学の時代に戻ったことを、強く認識させられまし
た。
アジアの人々の関心は、東アジアや南シナ海の安全保障に関するオバマの
スタンスにありましたが、欧米のメディアは遠くアジアを歴訪中のアメリカ
の大統領がウクライナ問題にどう対応するのかが気になって仕方がない様子
でした。地政学的な緊張が高まれば、地球の裏側に近い場所での緊張より、
身近な地域での緊張への関心が高まるのが当然です。
事態の進展のスピードにばらつきがあるものの、欧州とアジアの両方の主
要国間で地政学的な緊張感が同時進行的に高まるのは、第二次大戦以降では
初めての事態ではないでしょうか。地球上の別の遠く離れた場所で一見バラ
バラに動いているように見える出来事が、実は緊密に連動してやがて大きな
うねりに成長して、しばしばその時代の人々を翻弄するようになるというの
が歴史の教えるところであり、しばらくの間は世界の出来事から目が離せな
くなりそうです。
このような地政学復活の時代に、大変に参考になる本があります。「影の
CIA」とも呼ばれるアメリカの民間情報機関を経営するジョージ・フリードマ
ンの「激動予測(The Next Decade)」(早川書房、2011年)です。日本では
同じ著者の「100年予測」の方が売れて有名ですが、現在の世界の地政学的
状況を包括的に理解するにはこの「激動予測」が最適です。100年予測がや
やSF的な空想も含めた「予測」の書であるのに対し、「The Next Decade」は
予測の書というよりは、むしろ「地政学の現状」の書であり、アメリカが現
在とるべき戦略を示した本であるからです。
たとえば、ウクライナの情勢については、ウクライナやベラルーシといっ
て国がロシアにとってどれだけ重要な地域であるか、そしてソ連崩壊以来の
アメリカによるロシア封じ込め戦略があり、ロシアはその巻き返しを狙って
いたことを考慮すれば、「ロシアの再浮上」のタイミングで現在のような脅威
が生まれるのは当然のこととして予見されています。
しかしながら、フリードマンの長期的な視点では、ロシアは人口問題など
のよって弱体化する運命にあり単独でアメリカを脅かすようなリスクはない
と見ているようです。そしてアメリカが心配しなければならないのは、現在
ウクライナで起きていることとは逆に、ロシアがドイツと接近していくこと
であり、それによって欧州のパワーバランスが崩れ、アメリカが欧州から切
り離されることだとしています。
一方、われわれに関心が高い日本と中国のパワーバランスの問題について
ですが、結論から言えば、フリードマンは、ロシアと同様に中国の長期的な
見通しについては懐疑的に見ているようです。これは、中国の経済成長は必
然的にやがて鈍化して、その結果人民解放軍の不満などさまざまな国内問題
に対応せざるを得ないという考え方に基づいています。
フリードマンがアメリカの本当の脅威になると考えているのは中国でなく
日本であり、日本はやがて「静かで控えめな姿をかなぐり捨てる」という考
え方をもっているようです。ただアメリカの脅威という形に至るのは10年や
20年といった時間軸ではなく、もっと先の話であり、アメリカはそれに備え
て日本と友好的なスタンスを保ち、一方で中国が分裂しないように万全の手
を打つ必要があるとしています。(ちなみに「100年予測」では2050年に日
本が再びアメリカに奇襲攻撃を仕掛けると予測しています。)
さてフリードマンがこの本を書いてから3年が経過している現時点におい
て、少なくとも表面的には中国のパワーがますます増大しているように見え
る一方で、中国国内のさまざま矛盾はその内部で着実に膨らみ続けているよ
うにも見えます。そうした状況下、中国は対外的には好戦的な姿勢を見せ続
けるために、日本を始めとする周辺国は偶発的なリスクとその延長上にある
より大きなリスクが高まったと捉えて、必然的にそうしたリスクに備えるた
めの準備を進めます。
一方でオバマ大統領をリーダーとするアメリカが、リップサービスはとも
かくとして、本気で日本や他の同盟国の利益を守るかどうか疑がわしく思わ
れる状況であれば、日本が戦後70年間続けていた受動的な姿勢からの変貌を
始めるのはある意味で自然の流れのような気がします。そういう意味では、
安倍首相は時代の流れの追い風に恵まれた政治家なのかもしれません。
この先のアジアや欧州の歴史がフリードマンの描いたシナリオ通りに進ん
でいくかどうかは分かりませんが、個人的には、現時点では少なくともひと
つの有力なシナリオのひとつであり、常に頭の片隅において置く価値があり
そうに思われます。ただし、日本がアメリカにもう一度力で挑戦するところ
まで行き着くのは勘弁してほしいものですが・・・。
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2014年04月29日 | 米国